第7話 無力
俺は、マオの後ろを少し距離を取って歩く。夜道は暗く、女性がひとりで歩くには危険だ。しかしなぜか俺は、この世界は向こうの世界と比べて安全だと考え、敵に襲われることはないと安心しきっていた。
「きゃあ!」
ふいに現れたのはいかにも強そうな男、ふたり組。
「姉ちゃん、いい体してんなあ。一緒に遊ばない?」
マオの左腕を掴み、執拗に迫ってくる。
「は、離しなさいよ!」
俺は咄嗟にこの男らを敵と判断し、呪文を唱える。
「我の神聖なる炎よ! 敵を焼き尽くせ! “ファイア”!」
……。
「なんだこいつ。なんかぶつぶつ言ってんぞ」
(しまった! この世界じゃ魔法は使えないんだった! ど、どうしようか。あいつら強そうだから俺の物理攻撃じゃ倒せないだろう)
「ほっとけ、そんな雑魚」
そう言うと男らは俺を無視し、マオの体を触り始めた。
「姉ちゃん、いい体してんなあ。興奮してきたぜ」
「や、止めなさい!」
「ぐへへ、いいじゃねーかよ。たっぷり楽しませてもらうぜ」
(くっ! 俺は……俺は何もできないのか……。魔法しか取り柄のない俺はこの世界では無力ということか! 女性ひとりも守れないなんて男失格だ!!)
俺は男らに向かって歩きだし、「俺は……俺は男だぁぁぁぁぁあ!」と言って、殴りかかった。
がしかし、俺の拳は男らを殴ることはできず、受け止められてしまった。
「お前、ケンカ売ってんの?」
「ああ。元最強魔術師のこの俺が相手だ」
「元最強魔術師? 笑わせるねぇ!」
そう言って殴りかかってきた男を避ける。攻撃力はありそうだが動きが遅いので俺でもなんとか避けることができる。しかし、もうひとりの男に捕まり、動きがとれなくなった俺はついにその一撃を顔に受ける。口の中に血の味が広がり、意識が朦朧とする。そして倒れ込んだ俺に男らは何度も蹴りを入れる。
(くそっ! なんで魔法が使えないんだよ! 魔法が使えりゃこいつらなんて……)
意識が飛びそうになったその時、バゴォッ! と音がなった。
「いってえっ!」
「てめえ、何しやがる!」
そして、一対二の格闘が始まった。
バシッ! バシッ! バゴォッ!
誰だか知らないがこいつらは強い。だから勝てるわけないとそう思っていたが、「つ、つええ!」「に、逃げるぞ!」と男らを倒して見せた。
「良く耐えたな、タクト」
朦朧とする意識の中で見たその顔は、タイガだった。
(さすがは最強の剣士。頼れる男だ)
タイガの笑顔を最後に、俺は意識を失った。
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