第5話 取り調べ



 コンビニ裏の事務所で出されたお茶をすすっていると、中年ぐらいの警官がやって来た。

 そしてその怖い顔をしかめながら言う。


「万引き未遂をしたのは君か?」

「はい」

「じゃ、軽く取り調べをするからな」

「はい」

「まず、名前は?」

「タクト」

「フルネームで」

「フルネームでと言われても、それ以外は覚えていない……」

「覚えてない、ねぇ。まあいい。次、住所は?」

「住所は……覚えてない」

「ふーん。また覚えてない、か。じゃ、電話番号は?」

「知らない」

「困ったな。これじゃ、取り調べにならない」


 ガチャ。


 そこに長い銀髪の女性が現れて、「この人は、私の知り合い。今日のところは見逃してあげて」と豊満な胸を強調しながら言った。


警官は「そ、そうですか。では、私はこれで」と言って、帰っていった。


「オーナー! この人と知り合いなんですか!?」

「まあ、少しね」


 オーナーと呼ばれたその女性は俺を知っているみたいだが、俺はその女性を全く知らない。

 そしてその女性は俺に歩み寄ると、「私はマオ。よろしくね」と言った。


「よろしくと言われても……。俺はこれから――」

「行くところ! 行くところないんでしょ?」

「そ、そんなことは……」

「住むところは提供してあげる。飲み食いに関してもサポートしてあげる。そのかわり……」

「そのかわり……」

「ここで働いてもらうわ!」

「えっ! 俺は今まで人の下についたことはない! そしてこれからも! だから拒否する!」

「警察、呼ぶわよ?」

「くっ!」

「そう悔しがらないで。悪い条件じゃないんだから」

「しかし!」


 そこにミユキが割り込んだ。

「オーナー、こんな身元不詳の人間を雇っていいのですか?」

「もう決めたわ。タクトにはここで一生働いてもらう」

「そうですか……」


「タクト! アパートに案内するからついてきて! っとその前に、その魔術師の格好をどうにかしなきゃね。んー、先に洋服を買いに行きましょう。タクト、ついてきて」

 俺は嫌々ながらも他に行くあてがないので、マオについていった。



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