【童話】ゆめの夢

とろり。

ゆめの夢



 東京にお母さんとともに暮らす小学2年のゆめ。今日も家でお留守番。


「お母さんは私のために働いているんだ」


 お気に入りのくまのぬいぐるみに話しかける。


「けど、貧乏だからちょっと贅沢できないのが困るよねえ?」


 くまのぬいぐるみはきょとんと座っている。


「イチゴのケーキとかシュークリームとかプリンとか、甘いものをいっぱい食べたいなあ。そう思わない、くま太郎」


 何も言わずにゆめを見つめるくま太郎。


「お寿司も良いよね。私、まだ大トロ食べたことなくてさあ。一度は食べたいよねえ」




 午後9時。ゆめのお母さんは玄関を開けると同時に「帰ったで~」とゆめに聞こえるように大声で言った。


 眠い目を擦りながら「お母さん待ってたよ、お帰りなさい。お母さん、今日は関西人なんだね」とゆめはもにょもにょと言う。


「ゆめ、眠そうやな~。早く布団で眠り~」


「うん、」




 ゆめは一流料理人が集うレストランにいた。


「お嬢ちゃん。今日はいくら食べても無料ですよ。たくさん食べて」


 店員さんに促されると、まずはたくさん並ぶスイーツを皿に移し、それぞれ味わう。


「おおっ! 美味しいっ!」


 ゆめはイチゴのケーキもシュークリームもプリンも、ぜ~んぶ平らげた。


「さっ、次はおっ寿司~♪」


 ゆめは一皿目から大トロを注文。そして出てきた大トロを一口。


「わあっ! 美味しい! とろける~!」


 一皿、二皿、三皿……、ゆめはひとりで十皿も完食した。


「も、も~食べられないっ!」


 高級ソファに倒れる。




「ゆめ! 大トロばっかり食べるとあんた大トロになるで!」


 ゆめはお母さんの声で目を覚ました。


「ん? 大トロ?」


「誰が大トロやねん! お母さんやお母さん!」


 ゆめは次第に意識がはっきりしてくると、お母さんにさっきの夢を話し始めた。


「お母さん、あのね、わたしスイーツいっぱい食べた」


「そりゃ良かったなぁ」


「あと、大トロも」


「誰が大トロやねん! って違うわな」


「お母さん、頭大丈夫?」


「大丈夫や。ところで、甘いスイーツも大トロも美味しかったか?」


「んー、本当はあんまりよく分かんない」


「分かんないってなんやねん」


「だって夢の中だもん」


「そやなぁ」


「次はお母さんと本物のスイーツや大トロを食べるために、ゆめ、出世するね!」


「何言っとんねん。勉強しい」




 午前1時。ゆめは再び布団に入ると「大トロ~、もう食べられないよ~」と寝言をこぼしていた。


「もう少し我慢してやあ、ゆめ。誕生日にイチゴのケーキと大トロを奮発する。せやからもう少しやもう少し……」


「お母さん、だ~い好き……」


「ったく、ゆめにはかなわんなあ」



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【童話】ゆめの夢 とろり。 @towanosakura

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