第17話 月華宮

 さて、ここで問題です。

 わたしは今、何処にいるでしょう?



 答え――月華宮の屋根の上、しかも軒先。



 どうしてこんなところにいるかと言えば、幻龍から逃げ回っているからなのだ。そして、ついに追い詰められた。(って誰に話しかけてるんだ私)



「紫霞さん! どうしてこうも余を避けるっ」


「た、立場が、ち、違う」


 軒先に追い詰められ、逃げ道を完全に失った。


「そんなこと、余は全然気にしてないから。頼むから、前みたいに話そうよぉ」


 懇願する幻龍をよそに、この地域特有の強い風が、突然吹く。


「あっ……」


 私は風にあおられ、バランスを崩してしまった。さらに運の悪いことに、足元の瓦が割れる――体が完全に軒先の外に傾く。


 手を差し伸ばしながら近づく幻龍の手にとっさにつかまる。すると、体を引きよせられた。おかげで、屋根の上からの落下はなんとかまぬがれることができた。


(危なかったー)


「普段は厄介なこの突風も、たまには余の役に立つこともあるんだねぇ。もう逃がさないよ」


 そう言って、さらに強く抱きよせられてしまう。


 私の顔が彼の胸中にうずくまる。恥ずかしさのあまり、顔が熱を帯び、心臓が張り裂けそうになる。


 本当は彼ともっと話がしたい。


 それが私の本心。これってやっぱり恋だよね。でも、そんな彼はこの国の皇太子。つまりは次期皇帝だ。


(いっそのこと文官になってしまえっ)


 それに比べて私は、後宮の女官試験すら不合格となるポンコツ。それに今は偽りの占い師。どう考えたって釣り合わない。


「おーい、おふたりさん。いちゃついてるところ申し訳ないが、ここは後宮内廷だ。恋愛はご法度だぜっ」


 声をかけてきたのは天鷹だった。下からわたしたちを見上げるかたちとなっている。


「は、離せっ!」


 私が無理やり幻龍を押し退けるように暴れたため、そのままふたりして屋根から落ちてしまった。


 すたっ。ぐらっ。

 すっ。


「なにをやってるんだ? お前たち!」


 私も幻龍も着地に成功したため、安堵の表情を浮かべる天鷹だった。



「おーい、連れてきたぞー」

「今、戻りました」


 景陽と華鈴のふたりが、牢獄に拘束されていた清蘭を連れて戻ってきた。


「こんなちっぽけなアタシの命を救っていただきありがとうございます」


 深々とお辞儀をする清蘭。

 私は慌てて幻龍から離れ、そんな彼女に挨拶をした。


「き、教育、か、係の、紫霞、です」


「ね~、紫霞って誰?」

「さぁ」


(そうだった。このふたりは私を麗鳳だと思ってたんだ)


「華鈴ちゃん。驚かないで聞いてほしいんだけど……」



 天鷹が私に代わって、事情を知らぬ者に説明をしてくれてた。助かった。



(清蘭を救いたいと思ったのは私自身のわがままだ。なので、最後まで面倒をみるのは当然のこと。それに面倒を見る相手が、二人から三人に増えたところでなんの問題もない)


「へぇ~。なんだか面白そうだねぇ。そうだ、いいこと思いついた。余もここで暮らそう!」


「なら俺もっ」


 幻龍皇太子と武官の天鷹までここで暮らす? そんなの無理に決まってるだろ!


「皇帝には余から話を通しておくよっ」


 

 ――結論。話は通ってしまった。

 ちゃんとよく考えろ龍厳皇帝――。



 こうして、月華宮に新たな仲間が加わり、六人での共同生活が始まるのだった。



 

――――――――――――――――――――




 というわけで、第1章は終了です。


 次回からは、新しい展開とともに、恋愛が加速するはず、です。たぶん。

 ここまでたくさんの応援♡、コメント、星☆、レビューありがとうございます! 頑張りますので、引き続き応援してくださると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る