第11話 毒見役
占いを無事終えた私は、恐れ多くも龍厳皇帝と一緒の席で豪華な食事をいただく運びとなった。
毒見役が三人横に並ぶ。
あくまで私の主観であるが、ここはひとつ動物で例えてみよう。左から
一人一品ずつ順番に、ひとくち分だけ食す。
「毒ではありません」
「毒ではありません」
「毒ではありません♡」
毒見役の確認が終えた。
その後、もう一巡毒見が行われたが、そこでも毒は見つからなかった。いくら毒殺が流行っているとはいえ、そう何回も毒など混入させられるわけがない。
それにしても、一番右の子は圧倒的にかわいかった。皆が思い描く理想の妹。艶のある長い黒髪に、赤く大きなくりっとした瞳。肌は病的なまでに青白く、つい守ってあげたくなるような容姿だった。それに、セリフの最後にハートが見えたぞ。
毒見役である三人の姿を見失う。
(しまった、名前を聞くのを忘れた)
周囲にそれとなく確認するも、「毒見役の名前などいちいち覚えていない」といった反応ばかりだった。残念。
◇◇◇
食事を終えると、再び輿に乗せられ、なにやら大きな扉の前で降ろされた。
「ここは、
手伝い役の宦官は、深くお辞儀をすると、輿とともに去って行った。
私は月華宮内の避難経路を最初にしっかりと確認した後、巫女衣装を脱ぎ捨て、真っ黒な衣装に身を包むと、夜の後宮へと繰りだしたのだった。
私の得意分野である隠密行動の開始である。
目指すは、麗鳳のとばっちりを受け、刑部に連行されてしまった景陽のところ。先ほどの豪華な食事の残りを少し分けて貰ったので、それを差し入れしよう。あわよくば救出したいのだが、上手くいくイメージがまったく湧かなかったので、おそらく救出は無理なのだろう。
私はとりあえず北側の角に向かった。
牢獄の類は北の角と相場が決まっているからだ。
――その道中――。
庭園らしき場所から思わぬ声を聞いたのだった。
「んっ!」
艶っぽい声だった。
しかも同様の声がふたつ。
後宮内で皇帝以外の男が妃をたぶらかすのは極刑に値する罪。私は身を屈め、茂みの隙間から慎重に覗き見る。興味本位が十割だった。
花びらが舞う中、小さな池の畔で抱き合い、接吻をする男と女――ではなく、女と女。正確には貴妃と世話役の女官の組み合わせだ。
先ほどの五穀豊穣を占った際、私を偽物と疑い、それを肩を並べて話し合っていたふたり。まさかこのふたりが、禁断の恋仲だったとは驚きだ。やはり巷での噂通り、後宮は不純が多いようだ。
庭園を後にすると、なにかの小屋の陰で密会をする老人と孫の組み合わせを目撃した。ふたりは周囲をやたらと警戒している。まあ、私は見つからないけどね。自信たっぷりで、再び茂みの中に隠れた。
「これを、貴妃の使う器の淵につけるのです」
「わかりました。でもこんなことをして、わたしが疑われるなんてことはないでしょうか?」
「明日も毒見役は三人用意されます。それに、無能は刑部の人たちでは、これがなんの毒なのかもわからないでしょう」
月を隠す雲が流れ、ふたりの顔が月明りに照らされる。
それは、毒見役の
なにか大切な目的があったような気もしたが――優先順位からして、こちらが最優先でしょう。
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