第7話 奇策
後宮女官試験を不合格となった私は、結局、花街にある自分の店に戻っていた。派手に壊された入り口に『改装中』の張り紙をつけると、その場にしゃがみ込む。
「はぁ〜」
(島流しに、出禁かぁ〜)
つくづく運がない。
受けた依頼どうしよう? 残すは、不法侵入しか思い浮かばない。
夜間であればなんとかなるか? 無理、無理。
たとえうまく侵入できたところで、そこからなにができるというのだ? 老宦官の聡賢には顔バレもしているのだぞ。
それにしても、根回しされていたはずの試験に落ちるってどういうことなんだ?
「はぁ〜」
再び、ため息がでた。
ん? 急に私の周囲が暗くなる。
人影だ。
顔をあげると、いつの間にか厳つい体をした男たちに囲まれていた。しかも、
現役を退き、感覚が鈍ったか?
「いやぁ。お待たせ、お待たせ」
やけに明るい声が、私を囲む男たちの奥から聞こえてきた。
この声!?
「それじゃあ。好きなようにやっちゃてっ」
「おおー」
「おおー」
掛け声とともに男たちが動く。
店の入り口の寸法を測り、鋸で角材を切りだす――そう、彼らは大工だった。
「予定では朝一番から仕事を頼むつもりだったんだけど、寝過ごした」
幻龍の「寝過ごした」と言う言葉にビクッと体が反応する。
「あ、あの。し、試験、落ちた。す、すまない」
「紫霞さん。謝らなくても大丈夫」
笑顔で答えられると、さらに申しわけなく感じてしまう。それに――。
「し、試験、お、落ちたのに、店、直して、も、もらってるっ」
「扉を壊した取立屋を取り逃がしたのは、余の責任って天鷹も言ってたでしょう。それにもともと余の依頼内容を聞いたら店は修理するって約束だったはずだよ」
「嬢ちゃんの店を壊した取立屋三人は、その後、刑部の者たちによって、身柄を拘束したと連絡が入っている」
幻龍の隣で腕を組む、天鷹が話をつけ足してくれた。
「そこで、次の作戦なんだけど……」
ギコギコ、ガチャガチャ。
ドカッ、ギコギコ。
大工の作業音が慌ただしくなってきた。ここで立ち話を続けるのも難しいと判断した私は、幻龍と天鷹のふたりを店の中へと案内したのだった。
◇◇◇
お茶とともに余っていた
「うん。美味しいよ」
「確かに美味い」
よかった。喜んでもらえて。
「最初に確認しておきたいんだけど、八咫国には、すごい占い師がいるの?」
「東西の争いを収めた立役者のひとり!」
頷いた。
「なら、彼女を見たことは?」
「妖艶な美女で齢は二十四。それに、なんとも怪しい術まで使うらしい!」
「そ、それ、麗鳳」
(私の復讐相手だ)
「ちなみに紫霞さん。齢は? 余は二十二」
「俺は二十八」
「に、二十一」
「それじゃあ紫霞さんには、麗鳳に成り代わって後宮で占いをやってほしいんだ」
「安心しろ嬢ちゃん。この国でその者の容姿を知る者はいない」
「えっ?」
ふたりが息を合わせたように話をしている意図がようやく読めた。つまりは私を説得しているのだ。
「大丈夫。紫霞さんも美人だから」
「は、はいっ」
幻龍に予想だにしなかったことを言われ、思わす返事をしてしまった。
私が美人――好きな人から言われるとこうも嬉しくなるものだったのだな。
胸が高鳴る――恋確定。
「よっしゃー!」
「よっしゃー!」
ふたりが互いに手を上げ、手と手を合わせる。逆に私は観念した。
女官試験に落ち、出禁まで食らったのだからこれはもう仕方のないことだ。正攻法では、すでに攻略不可。となれば奇策に転じるのもありなのだろ――それにしても、なんの因果か私が復讐相手のフリをする羽目になるとは――。
「作戦実行は今夜。衣装はこっちで用意するから心配しないで」
「か、顔、隠したい」
一指し指を立てる。
それを見て、幻龍が納得したような表情を見せる。
「紫霞さんも占い屋では顔を隠していたもんね」
「神秘的でいいんじゃないか」
私はなんども頷いた。
「よし。衣装に追加しよう」
「そ、それと、じ、
ふたりがお互いの顔を見つめ合い瞬きを繰り返す。ふたりはきっと知らないだろう。これを燃やせば炎の色が赤から黄緑色に変化することを。
これで、みんなが私を麗鳳だと勘違いしてくれるはず。
(ふふふ、これが私の奥の手)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます