第4話 依頼
最悪だ。
これはかなり面倒なことになったぞ。私の恋心などに時間を割いている場合ではない。なぜなら、幻龍の依頼内容を聞いてしまったからに他ならない。
彼の依頼はいたってシンプルで、要人の『
「名は
頭を下げたのは天鷹のほうだった。
面倒ごと一。
護衛対象者。天鷹の実の妹であるという点。
それを聞かされて断れるか!
面倒ごと二。
彼女の現在。女官として後宮に仕えているという点。
後宮は帝の暮らす場所でもあるので警備が超厳重だ。
隠密行動がいくら得意な私でも、見つからないわけがない!
面倒ごと三。
彼女の仕事。毒見役を仰せつかっているという点。
天鷹がなんど本人に言い聞かせても、『三食昼寝付き』のおいしい仕事と思って疑わないらしい。
毒見役の護衛など聞いたことがないぞ!
面倒ごと四。
彼女の性格。護衛されることを極端に嫌っている点。
自分の身は自分で守れると本気で勘違いしているらしい。
甘やかしすぎだ!
心の中では色々と思うこともあったが、私はこの依頼を頷きひとつで引き受けたのだった。
「では、この無茶苦茶な余の依頼を達成するための作戦だが……」
(どうやら本人にも自覚はあるらしい)
「紫霞さんには、明日、後宮女官試験を受けてもらいたい」
「いっ、今、なんてっ」
「とりあえず後宮の女官試験を受けてもらって、毒見役の女官として採用してもらえるように手筈は整えておくから」
「そ、そこじゃ、なくて、な、名前……」
「あっ、少し馴れ馴れしかったかな? 占い屋さん」
私は首を全力で横にブルブルと振った。
再び心臓の鼓動が早まり、顔が熱くなる。
恥ずかしさのあまり、俯いたまま顔が上げられなくなってしまった。
「作戦実行は明日。それと、後宮内延は男子禁制だから、念のためにこれを渡しておくよ」
懐から銀色に輝く短剣を取りだすと、私の手の内に納められた。よく見ると柄の部分に龍の装飾が施された立派な懐刀だということがわかる。
(こんな立派な装飾、初めて見た)
もしかしたらこの男、ただの文官ではないのかもしれないぞ。
「それじゃ頼んだよ、紫霞さん」
幻龍は手を振り、天鷹は深々と一礼し、占いの店をでたのだった。
また名前で呼んでもらえた。嬉しい。
この晩、私は興奮のあまりなかなか寝付くことができなかった。そして翌朝、約束した後宮女官試験にまんまと遅刻するのだった。
(まぁ、出来レースのようなものなんだから問題ないよねっ)
◇◇◇
後宮女官試験結果、『不合格』。
(なぜ?)
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