第4話 銀髪の魔術師・1


 参加が決定した女忍者のカオル。

 まずは、これからの旅でどういった役割をしてもらうかの説明。

 不都合があれば、それについて考えよう。


「まず、サダマキさんには、マサヒデさんのパーティーが、今どういう状況か簡単に説明します。もうご存知かもしれませんが」


「はい」


「今、マサヒデさんのパーティーは2人。マサヒデさんと、トモヤさんの2人です。

 これでは人数が少なすぎますので、今回の試合を行い、有望な方に声をかけて、誘いました。トモヤさんについては、後ほど私達の泊地でご紹介します」


「はい」


「で、候補者は現在4人。参加が決定しているのは、あなたともう1人。

 祭のパーティーは5人まで、という決まりがあるのはご存知ですね」


「はい」


「そこで、候補者全員参加、となった場合です。1人多くなってしまう。その場合、あなたは祭の参加者として参加するのではなく、荷の番などをする雑用として着いてきてもらいますが、よろしいですか」


「問題ありません」


「この場合、マサヒデさんのパーティーが戦闘となった時、あなたは加われません。

 今回は試験ということで、あなたの戦闘技術も見られると思います。

 この点、大丈夫でしょうか」


「そちらは昨日の試合で合格を頂きました。問題ありません」


「では、問題ありませんね。

 では、あなたが出来ることで、この旅に役立ちそうな教えてもらいますか?

 もちろん、話せない、使えないこともあるかと思いますので、それは結構です。

 戦闘技術については文句なしですけど、我々はあなた方について疎いので」


「そうですね・・・

 直接な戦闘以外では、護衛、暗殺、偵察、潜入、工作、道案内、連絡、物資の調達、毒見と調薬。

 あとは、偽情報を流したりとか・・・

 簡単な傷の手当程度も出来ます。本職の治癒師とまではいきませんが。


 物資の調達ですが、場所によって物が限られますが、食料くらいであればまあどこでもいけるかと。

 調薬は、秘とされているものがございますので、作る所はお見せ出来ません。

 連絡も、どこから伝えるかなどはお教え出来ませんので、お言伝を預かり、それを。書簡などは無理ですので、そちらは早馬でお願いします」


 驚いた。彼女一人で、何でも出来てしまうではないか。


「パーティーメンバーとならなかった場合、出来ることは限られますが、問題ありませんか?」


「問題ありません。必要であれば、後日養成所からその部分の試験を受けることになります」


「分かりました。それでは、今の我々の問題を教えておきます」


「はい」


「まず、候補者の1人について。鬼の、魔族の方ですね。

 すごい力で、マサヒデさんを天井に吹っ飛ばした方ですが、ご存知ですか?」


「はい。試合を見ておりました」


「あの方なんですが、彼女の種族は女しか生まれないそうで。

 マサヒデさんに勝ったら、マサヒデさんを種族の種馬にしたいと言っています」


「はい」


「もし彼女をメンバーとした場合。

 いつマサヒデさんが襲われるか分かりません。

 寝込みを襲って『勝った! 今日からお前は種馬だ!』なんて言いかねません」


「なるほど」


「彼女がメンバーにならなかった場合。

 彼女は今の所、祭の参加者ではありません。

 旅の間、ずっとマサヒデさんを付け狙い、いつどこで襲ってくるか分かりません。

 あのすごい力で暴れられたら、どこかで必ず被害が出ます。

 祭と全く関係ない方にも、被害は出るでしょう。死人も出るかもしれません」


「確かに。では、私も今は参加者ではありませんので、始末してきましょう」


「・・・」


 カオルがドアに手をかけた。

 慌ててマサヒデが立ち上がって、カオルを止める。


「ま、待って下さい! そういうお願いではありませんから!」


「まあ、最後までお聞き下さい。

 彼女には、条件付きでパーティーメンバーに入ってもらいます。

 パーティーメンバーには手を出さない、と。

 入らない場合も、尋常の一対一の勝負であれば、うけましょう、という条件で」


「彼女が飲まなければ」


「飲んでもらいます。

 これは、あまり知られたくはないことですが・・・

 まあ、サダマキさんには話しても良いでしょう。もう仲間なんです。

 マサヒデさん、構いませんよね? マツ様のことです」


「ええ、構いません。私から話しましょう」


「マツ様。トミヤス様の奥方様でございますね」


「はい。えーとですね・・・

 あ、そうだ。あなたの顔を忘れる代わりに、この話も忘れて下さいね」


「はい」


「もしかしたら、もう知ってるかもしれませんが・・・

 私の妻の旧姓は、フォン=ダ=トゥクラインといいます」


「トゥクライン・・・トゥクライン? あの、トゥクラインですか?」


「はい。あの、フォン=ダ=トゥクラインです」


「フォ・・・つまり、それは、奥方様は、魔王様の、娘と・・・?」


「はい」


 ほとんど表情の動かないカオルだが、さすがに驚いた顔をしている。


「たしか、あの、私の記憶が間違っていなければ、マイヨールでは?」


「まあ、色々とありまして、母方の姓をずっと名乗っていまして」


「ま、まあ、魔王様の姫とあらば、色々ありましょうね・・・」


「そういうことです」


「では、奥方様に立ち会って頂き、必ず条件は飲んでもらう、と」


「ええ。ですけど、マツさんも姫という身分を笠に着て、無理矢理、というのは嫌でしょう。これまで色々と面倒があって、ずっと身分を隠していたんです。今だって、あまり知られたくはないでしょう。これは、マツさんの意見も聞いた上での手となります」


「な、なるほど。分かりました」


「マツさんが仲介を断る場合もありますし・・・

 そんな条件は飲めない、という場合は・・・」


 マサヒデはそこで言葉を切って、少しの間、下を向いた。

 そして、顔を上げた。

 目が据わっている。


「その時は、私が斬ります」


「・・・」


「ですので、彼女への手出しは、今は」


「・・・承知致しました」


 しばし、部屋が静寂に包まれた。

 アルマダが、カオルに声をかけた。


「少し、休憩しますか。サダマキさん、お茶でも」


「はい」


 カオルは、ギルドのメイドと全く同じように、洗練された所作で2人の前に茶を置いた。


「サダマキさんも、そこで構いませんので、一服入れて下さい」


「ありがとうございます」


 3人は静かに茶を飲む。

 少しして、アルマダがカップを置いて話し出した。


「もうひとつ。これは、マサヒデさんが原因の問題です」


 ぎくり、とマサヒデのカップを持つ手が止まる。


「試合でマサヒデさんと戦った、銀色の髪の魔術師の方、分かりますか?」


「虫を使っていた方ですね」


「はい。彼女も誘ったのですが・・・」


 アルマダは、ふう、とため息をついた。

 目が冷たくマサヒデを見ている。


「マサヒデさんの誘い方が悪くて・・・

 まるで『妻になって下さい』とでもいうような誘い文句を」


「妻に?」


「ええ・・・私もその場にいたんですが、あれは完全に『落ちた』女性でした」


「・・・」


「おそらく、近日中にでも、ギルドか魔術師協会の方に連絡が来るでしょう。

 マツ様には、もうお許しを頂いたそうですけどね」


「はい・・・」


「ここで『パーティーに誘っただけです。あなたを妻にする気はありません』だなんて、とても・・・

 マサヒデさん、そんな人の気持ちを踏みにじるようなことはしませんよね。

 あなたが、その気にさせてしまったんですからね。

 そんなことをしたら、私は一生、あなたを軽蔑しますよ」


「はい・・・」


「というわけで、おそらく近日中にマサヒデさんは妻が増えることとなりますね。

 ああ、そういえばマサヒデさんには話していませんでしたが・・・

 おそらくですけど、彼女、魔の国でも3本の指に入る、大貴族の一族の方ですよ」


「え!」


 マサヒデは驚いて、立ち上がった。

 カップから茶がこぼれる。


「あの輝く銀色の髪と、真っ赤な瞳。大きな魔力。

 まず間違いないと思います。マツ様もそうではないか、と見ています。

 もしかしたら、似ている方・・・かも、しれませんけどね」


 カタカタと、マサヒデのカップが揺れている。


「まあ、正妻が魔王の姫ですから、彼女も第二夫人で文句はないでしょう。

 その点についてはご安心下さいね」


「・・・」


「どうしました、マサヒデさん。今更驚くこともないでしょう。

 あなたの妻は、魔王様の姫なんですよ」


「そ、そんな! 聞いてませんよ!」


「話した所で、する事は決まっているでしょう?

 彼女を迎え入れるだけです。

 もしかしたら、ただ似ているというだけかもしれませんし」


「もし、もし、本当にそんな貴族の方だったら・・・」


「魔王様の姫を嫁に迎え、たった数日で、レイシクランのご令嬢を口説いた男。

 あなたはこれから、そんな風に陰口を叩かれるでしょう。

 きっと、魔の国中に、すぐに知られるでしょう。覚悟して下さい」


「・・・そんな・・・私は・・・! 断りましょう! 何とか断れば!」


「断ればもっと悪いことになりますよ。

 魔王様の姫を迎えながら、戯れにご令嬢を口説いた男。

 本気になってしまい、踊らされたご令嬢。

 周りは、そんなあなたをどう思うでしょうね。

 ご令嬢は、この先どう言われますかね。

 そんな事をしたら、私はあなたを一生軽蔑しますよ。先程も言いましたが」


「・・・」


 マサヒデは真っ青な顔で震えている。


「まあ、魔王様の姫ほどの方を迎えていても、それでも嫁に迎えたい、と。

 それほど魅力のあるご令嬢であった、と。

 そのように受け取ってくれる、かも・・・しれませんが。

 ま。相手のご両親には、このように説明すべきでしょう」


「うう・・・」


 どさ、とマサヒデは頭を抱えて、ソファーに腰を落とした。


 カオルは2人の話を聞いていて、言葉が出なかった。

 とんでもない男を主に選んでしまった・・・

 だが、もう彼女の試験は始まってしまったのだ。

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