第11話 誘惑




 2094年、ジョンの勤める会社、RB株式会社はロボットの管理システムの基礎を完成させた。

 担当責任者のサラは内心ホッとした様子でジョンに言った。

「ジョン、あなたのおかげよ。ありがとう」

 肩の荷が降りたのか、サラは涙をうっすらと浮かべた。

「泣くなよ、サラ。これからが本番なんだから」

 サラはロボット管理システムの応用プログラムの開発責任者に抜擢されていた。

「そうね。でももう少しだけこの瞬間を味わいたいの」

「長かったからな。応用プログラムの開発はさらに長くなりそうだ」

「ええ」

 ビズは記念写真を提案した。RBフォン――RB株式会社が開発したスマートフォン。小型でシンプルな操作性を持つ――のカメラ機能をビズは起動させて、カシャッと写真を撮った。中央には笑顔のサラが、隣にはジョンが、そして開発チームのみんなが写っていた。

「ビズさんもどうです?」

 ジョンはビズの写真も撮ろうとしたが、「俺は撮る方専門でね」と返された。

 その後は、社内で祝賀会が開かれ、RB株式会社の全ての社員が参加した。

 いつもはノンアルコールの酒を飲むジョンだが、この日ばかりはアルコール入りの酒を飲み、見事に酔っぱらった。顔は赤くなり、足取りはフラフラ。それでも上機嫌なジョンは、さらに酒を飲んだ。

「酒~、酒はどこだ~」

 ついにジョンは床に寝転がってしまった。比較的大柄なジョンをベッドに運ぶのは難しく、サラはタオルケットをかけてあげることで精一杯だった。ジョンをこのまま放置するわけにもいかず、サラはジョンの傍にいることにした。

 祝賀会後の会場はとても虚しかった。まるで祭の後のように。

 ジョンがときおり、マリーのことを寝言で呟いた。サラはそれを微笑ましく見ているだけであった。無防備なジョンはその通り無防備で、サラは一線を越えることもできた。しかし、サラの良心はそれを許さなかった。ジョンを前々から好きでいたサラは、悪魔のような邪心に時々心を揺さぶられるのであった。



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