第9話 後輩2




 2日後、その後輩は会社に現れた。

「どうもすみませんでした。ここを辞めても他に行くところはないので、今日から心機一転、頑張りますよ!」

「俺は君を信じていたよ」

「良かった。今日からまたよろしくね」

 ニコニコと笑顔を作る後輩は、挨拶を済ませると、自分のデスクに向かった。するとそこにはビズがいて、「戻ったか。良かった良かった」と後輩と軽くハグをした。恥ずかしそうに顔を少しうつむきながら後輩は「ありがとうございます」と言った。


「ところでジョン、今日は家に帰るの?」

「そのつもりだが?」

「マリーさんにこのプログラムのチェックをお願いしたいのだけど、いいかしら」

 サラはBメモリ(大容量情報記録カード)をジョンに見せた。

「マリーはエリーの子育てで忙しい。まともにチェックはできないと思うが」

「そう、わかったわ」

 サラが立ち去ろうとしたとき、ジョンは彼女を引き留めた。

「ちょっと待って。一応マリーに確認を取ってみる」

「ありがとう」


 プルルル。プルルル。

「ジョンだ。マリーにチェックしてもらいたいコードがあるんだ。できるかい?」

「できなくはない……と思う」

「んー、じゃやってくれるね?」

「まあ、いいわ」

「わかった。今日、サラのBメモリをもって行くよ」

「待ってるわ」

「バイ」

「バイ」


 通話を終えたジョンはサラに向き直って「オーケーだ」と伝えた。するとサラは、自分のBメモリをジョンに渡し「よろしくね」とにこやかに言った。

 デスクに戻り仕事を始める。そしてその日はトラブルなく終わった。


 家に帰ったジョンは早速Bメモリをマリーに渡す。

「エリーのことで忙しいけど、やれるだけやってみるわ」

「ありがとう、助かるよ」

 ジョンは冷蔵庫を開けると、ノンアルコールの麦酒の缶をカチッと開けた。そして、少しずつ口に含ませる。酒の肴として乾燥保存されているイカを、こちらも少しずつ口に含ませる。塩辛いイカと程よい苦味のある麦酒はジョンのお気に入りの組み合わせだ。

 テレビニュースが言っていた。「ロボット業界のベンチャー企業、ロボティクス株式会社がロボットだけの街を完成させた」と。

「ビズの言っていたベンチャー企業か」

 ジョンは顔をしかめる。それは麦酒の苦味によるものではなく、ニュースによるものだった。

「勢いがあるな。俺の会社が追いこされなければいいけど」

 テレビの電源を消すと、ジョンは渋い表情のままベッドに潜り込んだ。



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