第4話 『ロボット社会』



 ジョンは会社に来るのに使った自動運転車に乗り込み、マリーとエリーのいる病院に向かった。

 この地域は年中暖かい気候で、雨もあまり降らない。晴れの日が多く、とても過ごしやすい。時々マリーは「暖かいし晴れの日が多いから、1年中春みたいな地域ね」と呟く。マリーの母国では四季があると言う。そしてそれは、儚くて美しいものだと言う。しかしジョンは、季節があるという感覚が良く分からなかった。

「この季節――マリーのいわゆる春――が、俺は好きだな」

 今、この晴れた青空の下で、ジョンは車窓から景色を眺めつつ、そんなことを思う。

 車の通行は全て管理されているため、会社から病院まで約10分で着いた。ものすごく遠いという訳ではないが、ある程度距離がある。それでも昔に比べれば随分と速い。

「マリーのおかげかな」

 自動運転技術の開発にはマリーも参加している。ジョンは後でそれを聞いたとき「面白そうだな」とマリーに言った。マリーは「そうね、楽しかったわ」と笑顔で返した。ジョンはマリーの博識なところに強く感動した。それと同時に絶対に届かない目標との認識も生じた。まさに雲の上の存在であった。

 車から降りて、真っ先に病室に向かう。

「元気かい?」

「元気よ。退屈すぎるくらい」

「良かった。エリーは?」

「エリーも元気。心配いらないわ」

 マリーはベッドの上で横になりながら『ロボット社会』という本を読み始めた。

「面白いかい?」

「まあまあね。この本の筆者はロボット社会を否定しているけど、私は肯定している。だから、まあまあ」

「ふーん。読み終わったら貸してくれないか?」

「いいわよ。ただし必ず返すこと。あなたは忘れっぽいからそこに注意して」

「わかったよ」

 ジョンはマリーのいる病室を出ると、エリーのいる病室に移動した。エリーはぐっすりと眠っていた。

「良かった」

 ジョンは看護師に「退院はいつですか?」と訊くと、看護師は「1ヶ月後です」と答えた。ジョンは1ヶ月はとても待ちきれないと感じた。



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