第2話 好きな人



 小学校の頃、顔なじみである彩花は真理にとって大事な友達のひとりだった。

 真理が彩花の異変に気づいたのは、中学2年生の4月。教室でひとりぼっちで泣いているところを見かけたからである。

 彩花は真理に気づくと走って逃げた。それを追うようにして真理も走った。ようやく捕まえたのは昇降口で、ほとんどの生徒はいなく、閑散とした放課後だった。

 彩花はほっといてと言うが、真理は

心配してほっとけないよと言った。しかし彩花は、真理を振り払うようにして校舎を後にした。真理はそんな彩花の背中を遠くなるまで見つめた。

 授業を無視し教室の窓から校庭を見つめて、そんな過去を思い出していた。


 放課後。

 絵を描くのが上手な彩花は屋上から校庭をのぞき、陸上部の練習風景をここ数ヶ月描いている。

「また陸上部?」

「うん」

「好きな人でもいるの?」

「えっ……」

 彩花は戸惑った。というより図星の方が近いか。顔が赤くなりテレた表情をする。テレ隠しに近くに置いてあったシャボン玉の液体にストローをつけ、ふーっとふくらます。シャボン玉は宙に浮かび、壊れて消えた。

「誰?」

「いや……」

「教えてよ」

「んーとね……。前島太一(まえじまたいち)君」

「えっ」

 彩花のその答えに真理は言葉をつまらせた。真理も太一の事が好きだからだ。

「そ、そうなんだ」

 どこかぎこちないその発言に彩花は真理も太一の事が好きだということに気づいた。

「真理も?」

「バレた?」

「バレバレだよ。顔に書いてある」

 真理は内緒だよと彩花に言いながら、校庭を見おろした。



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