夢路。

 目が覚めると、そこは学校の教室だった。

 周りは賑やかで、生徒達はいくつかのグループに分かれ机の上に弁当を広げている。


「……どこだ、ここ」


 辺りを見回しながらそう呟く。

 学校なのは一目瞭然なのだが、そもそもなんで自分がこんなところにいるのかがわからない。それもおそらく高校だろう。


 そんなものは五年前にとっくに卒業してる。今は普通のサラリーマンをやっているのだからこんなところに来ることもない。

 そこから導き出される答えは――


「……夢か」


 俺は再び机に突っ伏して目を閉じる。

 昨日の夜に高校のアルバムを見たせいだろうか。

 高校時代どころかそれより前の記憶すらないのにどうしてこんな夢を見るのだろう。


 もしかしたらまだどこか記憶の片隅にでも残っていたのかもしれないが、正直今さらどうこうしたいとも思えない。

 だってもうどうしようもないのだから。


 失った記憶は取り戻せたとしても、過ぎ去った時間を戻すことはできない。

 つまり今から何をしたところで現状は特に変えられないのだ。

 夢なら早く冷めてほしい。


「もう、また寝てるし。ちゃんとお昼食べたの?」


 そんな声が俺の後頭部の方から聞こえる。


「ねぇ、おーいってば」


 誰かが俺の肩を掴んで小さく揺らした。

 そのおかげで先ほどの言葉が自分に向けられての言葉だったということに気づく。

 とっさに顔を上げて後ろに振り向くと、そこにいたのは制服姿のショートカットが似合う女の子だった。


 学校にいるのだから制服なのは当然だが、何より驚いたのは肩に触れられた感覚が妙にリアルだったのだ。

 とても夢とは思えない感覚で、意識もぼんやりとしてる感じはなく、かなり鮮明である。


 俺は恐る恐る自分の頬を摘まんでから、軽く力を加えた。

 普通に痛い。なんでだ。夢だよな、これ。


「えぇっと、……何やってるの?」


 彼女が不思議そうにこちらを見つめていた。


「いやぁ、ははは……」


 誤魔化すように作り笑いをして、俺はとりあえず一旦冷静になってみることにした。


 もしこれが夢ではなく現実だとしたらどうだろう。

 なんだかよくわからないけどタイムスリップしてしまった、みたいな。

 どうやら彼女は俺のことを知っているみたいだし、現状から見るに高校時代の同級生なのではないだろうか。


 俺はポケットに入っていた携帯を取り出して日付を確認する。

 年は元の時間から約五年前。一月の半ばで、高校三年。

 ちょうど俺が記憶をなくす少し前の頃だ。


「ん? どうかしたの?」


 考え込んでいた俺に、彼女がそう問いかける。


「ああ、いや、何でもないよ」


 あくまで平静を装って俺はそう返した。

 正直誰なのかも全く思い出せない。


「そう? あ、そろそろ授業始まっちゃうからまたあとでね」


 そう言うと彼女はさっさと自分の席に戻っていった。

 なんでこんなことになっているのかはわからないが、なぜだか少し懐かしい気がした。

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