彼女の嘘。

「ねぇ、ツン子」


 ベットで横になったデレ子と、机の椅子に腰かけるあたし。

 ここはあたしたちが使っていた部屋。元は一人だったから、部屋には一人分のものしかない。


 二人に分かれても元は同じ。だったらと、今も二人で一つの部屋を使っていた。


「あたしたちって、また一人に戻ったらどうなっちゃうんだろうね。やっぱりどっちかの人格が消えるのかな?」


 今日はやけに同じ話題を何度も振ってくる。いったい何だというのか。


「さぁ、もともとは一人だったんだからそうなんじゃない?」


 あたしはどうでもよさそうに答える。


「じゃあもし、あたしたちのどっちかが消えるとして、彼はどっちのあたしになって欲しいのかな。今までどうりのツンツンしたあたしか、それとも彼にデレデレのあたしか」


「それは……」


 そんなのは決まっている。

 いつもツンツンして嘘ばかりつくあたしより、本音をちゃんと言って可愛げのある方がいいに決まっている。


 あたしはいつも本音を言えない。

 言いたくないわけじゃない。むしろその逆だ。

 本音を言うのが恥ずかしい。それに怖いんだ。


 笑われたらどうしよう、嫌われたらどうしよう。

 そんなマイナスの感情ばかり湧いてくる。


「知らないわよ、そんなこと……」


 そうして気づけばあたしは、強がって、また――嘘をつく。





 次の日。

 午前の授業が終了して、昼休みに入る。

 今日はツン子と二人きりだ。

 デレ子はお弁当を食べ終わると用事があると言って先に教室に戻っていった。

 正直気まずい。


 昨日の彼女の質問の答えを、俺はまだ出せていなかった。

 でも、ちゃんと答えておきたい。あの時の彼女の顔は真剣だった、気がする。

 そんなことを一人で悶々と考えていると、彼女の方から話しかけてきた。


「あのさ、昨日のことなんだけど……」


 そう切り出す彼女。

 俺は無意識に身構える。


「変なこと聞いてごめん。やっぱり忘れて」


「……え?」


 想像と違う彼女の言葉に、俺はそんな声を漏らす。


「あんなこと聞いてもどうにもならないし。だいたい答えなんて最初からわかってるようなもんだし」


「いや、えっと、急にどうしたのさ?」


「あたしたちはたぶん、いつかは元に戻ると思う。けど、その時あんたが望むあたしはどんななんだろうって、ふと考えちゃってさ」


 俺が望む彼女。それはいったい何だろう。


「でもそんなの、考えるまでもないじゃん」


「え、どうして?」


 いつもツンツンして本音を隠してしまう彼女と、いつもデレデレして本音を隠さない彼女。

 俺にとっては、両方とも紛れもない彼女の一部で、どっちかを選ぶなんてできない。


「じゃあ、あんたはあたしの本音が聞けるのと聞けないのだったらどっちがいい?」


「え、えっと……それは……」


 それは、聞けた方がいいけど……、でも……。


「そういうこと。だから、あの子の方がいいに決まってるじゃん」


 彼女はそれが当たり前だというように答える。


「だって、あの子がいれば、こんな嘘つきで素直じゃないあたしなんていらないじゃん。いつも冷たい態度ばっかで、言いたいこと言わないで嘘ばっかり。全然可愛くない。そんな彼女なんて嫌でしょ?」


 そのとき、彼女が久しぶりに笑顔を見せた。

 その笑顔が本当は、辛さと寂しさを押し殺すように上にかぶせられた本音を隠すための笑顔だということに、俺は気づくはずもなかった。

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