望む姿。
昼休み。
中庭のベンチに三人で座ってお弁当を食べる。
真ん中に俺、その左右に彼女たちという並びだ。
「今日のお弁当どうかな? 二人で作ったんだけど、大丈夫?」
「うん、今日もおいしいよ。ありがとう」
「ううん。どういたしまして」
デレ子が優しく微笑む。
「ちなみにどれが一番おいしかった?」
不意にそんなことを言う。
そのタイミングでツン子の動きがぴたりと止まった。
俺は思ったことをそのままいった。
「えーっと、どれも美味しかったよ」
「じゃあじゃあ、どの味付けが一番好みだった?」
さらに質問を重ねるデレ子。
「うーん、しいていうなら……これかな?」
俺がそう答えると、デレ子が嬉しそうに声を上げた。
「あ、それあたしが作ったやつだ。やった、うれしいなぁ」
ツン子が僅かに反応した気がした。
「そうなんだ。でも、本当にどれもおいしいよ」
「うん、ありがと」
前まではあまり見れなかった彼女のデレが、今では毎日のように見れる。
なんだか嬉しい。だけど――、
「ツン子も、いつもお弁当ありがとう。すごく美味しいよ」
「……別に。二人分も三人分も作る手間は変わらないし」
そっけなく答えて、おかずを頬張るツン子。
前よりもツンの部分も多くなってしまった。
デレ子は本音を言ってくれるけど、ツン子は言ってくれない。
正直、本当の気持ちがわからない。
どうして彼女はこんなにもツンツンしているのだろう。
前まではそれが普通だった。だけど本音を言ってくれる彼女と言ってくれない彼女がいると、言ってくれない方にはどうしても不安を感じてしまう。
彼女は満足しているだろうか。俺のことを本当に好きなのだろうか。
前よりもいろいろな彼女の一面が知れたはずなのに、なぜだか前よりも彼女を遠く感じてしまうときがある。
嘘と本音、どっちが本当の彼女なんだろう。そんなことを、ときどき考えたりもする。
◆
放課後。帰り道。
日の落ちかけた帰り道を三人で歩く。
「あーあ、それにしてもいつ元に戻るんだろうね、あたしたち」
何の気なしといった様子で、デレ子がそんなことを言う。
「うーん……」
正直全くわからない。
なんで、彼女のツンとデレは二人に分かれてしまったのだろう。
「そのうち勝手に戻るんじゃない。ほっとけばいいのよ」
「いやいや、自分のことなのにそれはどうかと……」
苦笑いを浮かべる俺。
どうやったら彼女は元に戻るのだろう。
元に戻ったらまた前のツンツンときどきデレの彼女に戻るのだろうか。
わからないことだらけだ。
「あんたは――」
ツン子が急に口を開く。
「あんたは、あたしたちにどうなって欲しいの?」
「え?」
「また前のあたしの戻って欲しいの? それとも、デレ子みたいに本音をたくさんいうあたしの方がいいの?」
そういう彼女の表情は、いつになく真剣な気がした。
「えっと、それは……」
返事に困った。
俺はどっちの彼女も好きだ。だけど、本音を言ってくれる彼女がいてくれると色々と助かるのは事実。ツンな彼女の代わりに本当の気持ちを教えてくれているのだから。
かといって、最終的にはまた一人の彼女として元に戻ることになるだろう。
そのとき俺はいったい、彼女に何を求めるのだろう。
俺は結局、答えを出すことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます