妄想彼女。
いつからだっただろう。気づけば彼女はそこにいた。
違和感なく俺の日常に溶け込んでいた。俺は何の不信感もなくそれを受け入れた。
彼女は俺のことが好きで、俺も彼女のことが好きだった。
なんか、出来過ぎている。でも、それもそうか。
彼女はただの幻で、俺の妄想でしかないのだから。
彼女といると楽しいけど、でも少しだけ、寂しさを感じた。
◆
昼休みに入った。
購買で昼ご飯を素早く買うと、人気のない場所を探す。
「屋上かな……」
なんとなく、その方に足を運ばせる。
普段は閉鎖されている屋上。扉にはいつも鍵がかかっている。
だが、実は鍵が壊れていて、コツさえつかめば誰でも簡単に扉を開けられる。隠れた穴場だ。
その扉を慣れた手つきで開ける。
「あ、手汚れちゃったよ……。まぁいっか」
割とどうでもよさげに屋上に入ってから、柵の方で腰を下ろした。
静かだ。なんか落ち着く。
「……なんだ、あんたいたんだ」
そんな声とともに彼女が姿を現す。
「まぁな」
そっけなく返事を返した。
すると彼女が隣まで来て腰を下ろしてから言った。
「……あのさ、今朝なんだけど」
「ああ、そういえば。どうしたんだよ、なんか怒ってるみたいだったし」
「ああ、うん……なんかね。……ごめん。怒った?」
「いや、全然」
「そっか、よかった……」
急にしおらしくなったりするところはすごく可愛い。
「で、どうしたんだよ。今朝は」
「なによ、彼女が彼氏にやきもち焼いちゃいけないわけ?」
はいはい、かわいいかわいい。
「やきもちって、あれは別にそんなんじゃないだろ」
「でもなんか仲良さそうだったし」
「……そんなことないよ」
あの子は基本的に誰にでも優しいだけだ。まぁ、たまに勘違いしそうになるけど……。
「ほんと?」
「ほんとだって」
彼女がこっちをじっと見て黙る。
「……なーんてね」
「……え?」
「冗談よ、冗談」
「なんだよ、それ」
彼女がいたずらっぽく笑う。
どうやらからかわれてたようだ。
「で、ほんとはどうなの?」
「なにが?」
「あの子のことよ。もしあの子に告白されたら、あんたはどう思う?」
「え、いや、まぁそりゃあうれしいけど」
「じゃあ付き合ってくださいって言われたら付き合う?」
「いや、何言ってるんだよ。俺にはお前がいるし」
「あーうん、そうなんだけどね……」
彼女は、嬉しさと恥ずかしさと少し寂しそうな、何とも言えない表情をしてから、困った笑みを浮かべた。
「でもさ、やっぱり私はあんたにはちゃんとした恋人を作って欲しいなっていうか」
「無理だよ、俺には。かっこいい部分ないし、自慢できることないし。いいとこ何もないし」
本当に、何もない。
自分が嫌になるくらいに。
こういうことを考えると、途端に死にたくなる。
「そんなことないよ」
彼女はなんの迷いもなくそう言った。
「全然そんなことない。だってあんた、すごく優しいから。ダメなとこもあるけど、私はあんたのいいとこも知ってる。私はそういう存在だから」
そう、そういう存在。
俺の一番の理解者であって、理想の恋人像。
もちろんそれは理想であって現実ではない。
でも、だからこそ気楽に接することができる。居心地がいいんんだ。
でもたまに、少しだけ寂しくなる時もあったりする。
「えっと、ありがとう。でも、それはお前だからで、他の人は知らないよ」
「なら知ってもらえばいい」
「どうやって?」
「そのくらい自分で考えてよ」
ピンッ、とおでこにデコピンを入れられる。
「いでっ……。なんだよ、もう」
彼女がくすくすと笑う。
「あれ、もしかして怒った?」
「……別に」
その後、しばらく他愛もない話をして教室に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます