モウソウカノジョ。

晴時々やませ

いつもの日常。

 朝。

 通学路をだらだらと歩く俺と彼女。


「ふぁ~、眠い」


「夜更かしでもしてたの?」


「ああ、課題がな……」


 なんの変哲もないやり取りを交わす二人。


「睡眠はしっかりとらないと。体調壊すと大変なんだから」


 ウェーブのかかった長い黒髪を小さく揺らして、彼女は呆れた顔でため息をつく。


「わかってるよ。いつもありがとな」


「なに? 急に、どうしたの?」


「いや、朝とか、起こしてくれてさ」


「ふん、別に。……どういたしまして」


 彼女が照れくさそうに顔をそむける。

 いつもどうりなこの感じ。だけどなんだか落ち着かない。

 それは、実は彼女が――


「おはよう、今日も朝から独り言?」


 後ろから声をかけられた。同じクラスの女子だ。まぁそれなにり仲はいい。

 といっても、俺とこのクラスメイトが特別仲がいいわけではない。

 この子は割と誰とでもすぐ打ち解けられるタイプで、俺なんかにもこうしてかまってくれている。優しくて周りに気が利く。すごくいい子だ。


「あ、いや、ははは……」


 俺は返事に困って笑ってごまかす。


「そういえば、今日提出の課題ちゃんとやった?」


「あー、うん。昨日何とか」


「そっか、ならよかった」


「あぁ、いや、まぁね……」


 何がよかったんだろうか。

 そんな話をしながらだらだらと歩く。

 すると、今しがた会話していた方とは逆側から袖を引っ張られる。


「ねぇねぇ」


 ふいに彼女が小声で話しかける。


「……なに?」


 俺はさらに小声で返す。なるべく反対側に気を配りながら。


「退屈。かまって」


 なぜかちょっと不機嫌そうだ。


「……無理。わかってるだろ」


「……ふんっ。あっそ」


「あっ……」


 彼女はそのまま先に行ってしまった。


「ん、どうかしたの?」


 つい声が漏れる。


「いや、なんでもないよ」


「? そうなの?」


 クラスメイトの子は何も気づいていない。

 さっきまで俺の隣に彼女がいたことを、この子は気づいていない。

 正確には、見えていなかったのだ。


 彼女は誰にも見えない。俺にしか見えない。


 しかしそれは至極当たり前のことで、別にこの子がおかしいわけじゃない。

 そもそも彼女なんて実際には存在してないんだ。


 なぜなら彼女は、俺が作り上げたただの幻でしかないのだから。

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