第7話 俺も男だ

「それは……騎士になりたいからだよ。学園に入学できた奇跡を無駄にしたくないんだ」

 と、トオルは言った。


 カレンが顔をゆがめる。


「理由はわかったよ。でも、それがどこをどーなったらパンツが見たいになるの?」


 カレンの淡い桃色の髪も彩能による変色だ。

 黒色、金色、茶色、赤茶色、老化による白色が自然な髪色の世界で、桃色や紫色の髪をした人間は間違っても産まれない。


「彩能は色と願望が合わさって発現する。そうだったよな」


「授業ではそー習ったね」


「俺は自分の色を知った。なのに彩能が発現しない。ということは願望が足りてないってことだ。俺の彩能はユメの役に立つ力だと思ってた。でも、現実はそうなってない。だったら自分の願望がなんなのかを探すしかないだろ」


「だからパンツ? そんなにパンツ見たかったの?」


「俺も男だ。興味がないとは言わない。それに誰かが前に言ってたんだよ。スカートの中は男子にとって永遠の憧れだって。だから、もしかしたらって思ったんだ。まあ、一番の理由は散々試してきて、もうそれくらいしか思いつかなかったからなんだけどな」


 すると、カレンが脚をモジモジさせ始めた。


「……いー、よ?」


「なにが?」


「トオくんにならパンツ……見せたげても、いーよ」


 幼馴染からのありがたい申し出。

 にもかかわらずトオルは腕を組んで唸った。


「んー……どうだろうなー」


「見たいんでしょ? トオくんにだったら、あたし……」


「よく考えてみたらさ、いまさらパンツなんて見てどうすんだ?」


「……それをあたしに訊かないでよ」


「だって、もうみんなの裸みちゃってるんだぞ?」


「……トオくん」

 と、カレンが目を細める。

 そこには確かな軽蔑が込められていた。


「……はい、なんでしょう」


「さいってー」


「奇遇だな。俺も自分でそう思ってたところだ」


 開き直ってはみたものの、視線が痛い。


 やや居心地の悪くなったトオルは唐突に話題を変えた。


「そ、そういや! お前はどうだったんだよ、模擬戦」


「えー、それを聞いちゃう?」


「無理すんなよ。お前だって俺と似たようなモンなんだから」


「んっふっふ、今日のあたしは一味ちがうんだよ!」


「ま、まさか……!」


 トオルが大仰な素振りで反応してやると、カレンは自慢げに親指を立ててみせた。


「ソッコーで棄権してやったぜい!」


「どうせそんなことだと思ったわ!」


 言うが早いか、座学教室に景気の良い音が響いた。


「いったーい!」

 涙目でカレンが後頭部を押さえる。

「女の子の頭を叩くなんてひどいよ! しかも思いっきし!」


「大丈夫、ちゃんと平手だ。傷は浅いぞ」


「うー、トオくんの人でなし!」


「俺が人でなしならお前は騎士でなしだ! なーにが『棄権してやったぜい!』だ! それが騎士を目指してる人間のやることか!」


「だって痛いのやだもん!」


「だからってお前なー……」


 負けじと大きな声を返してくるカレンに、トオルは脱力した。


 トオルは痛いのが嫌いだ。

 トオルだけではない。

 一部の人間を除いて、斬られたり突かれたりして喜ぶ者はいないだろう。

 それでもみな、出血や打撲の苦痛、刃物の恐怖に弱音も吐かずに堪えている。

 すべては騎士になりたいからだ。


(そのヘンをこいつは、よくわかってないんだよな)


 これは良い機会かもしれない。


 じっくり言い聞かせてやろうとトオルが口を開きかけた瞬間、


「あーはっはっはっはっは! それは違うよ、トオル君!」


 どこからともなく、よくとおる声が聞こえてきた。

 芝居がかった口調と声だけで誰だかわかってしまう。

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