トロール編
ザガンの街へ
「⋯⋯え?」
「あっ⋯⋯」
唐突だが、呑気に自然豊かな景色を出汁にラーメンを啜る白狼と、絶望の中必死に歩き続けたユディたち。
──その2つが今、こうして巡り合った。
「あれ?ユディじゃないか!こんなところで何してるんだ?」
「⋯⋯あはは!白虎さん!こちらのセリフですよ!」
運命の巡り合わせか、それとも。
***
出会った白狼はすぐに事情を聞いた。
が、しかし──。
「⋯⋯なるほどな」
「どうしました?」
思い当たる節が多すぎる白狼の脳内は完全にどうしようと八方塞ぎの状況だった。
(まずい。ぜーったいにまずい)
どうする?多分これ、春たちが何かやらかしたんじゃないかって気がビンビンに感じるんだけど。しかも人間たちと言っても、俺以外のすべては多分捕食対象だろ?これじゃあ色々まずい。
「ユディたちが攻撃したからそのアント達が反撃してきたと?」
「あ、そうなんですよ!そもそも間引くのが目的だったので!」
(春たちと仲良くしているからか、やっぱり感情的には現地人よりも魔物寄りだわな)
「⋯⋯言いつけは守っているな」
「え?何か?」
「えっ?あぁ〜色々大変だったんだなぁと考えていたらぼうっとしてしまいましたよ」
(危ね⋯⋯!だがみんな約束は守っているようだ。しかし、これではもっと気付かれてしまうのも時間の問題だろう。どうにか対策を練らないと)
「とりあえず⋯⋯これ食べてみますか?」
白狼は異世界verラーメンを手にとっておかわり分のいくつかをよそって振る舞った。
パーティーメンバーが一口啜ると、全員の表情が固まり、次の瞬間大騒ぎ。
『白虎さん!!これなんですか!?めちゃくちゃ美味いですよ!店出せますって!!』
『初めて見る食べ物ですが、俺だったら4500コインは出します!』
「おー、エラい高評価だな」
(ラーメンは異世界人にも高評価っと)
デカイ冒険者たちが小さめの容器を一瞬で食い尽くす。これではミニチュアの世界にしか見えん。
「これラーメンって言うんです。俺の故郷で鉄板中の鉄板の一品なんですよー」
(嘘は言ってないからな。"異世界"の、故郷の単語は抜けてるけど)
「そうでした、白虎さんに改めて謝らなければなりません、本当に⋯⋯申し訳ありませんでした!」
「いいっていいって、ダンジョンで出会ったですし、俺も半々の気持ちで預けたまでなので!」
(しっかし⋯⋯まさか人間の街でアントについてかなり噂が広まってるみたいだ。このまま入ったらまずそうだな)
「あ、そうだ。俺はこの辺の人間じゃないので、一般的な料理や調味料などあったら教えてもらえませんか?実物を交えて!」
「あっ、やっぱり白虎さんはこの辺じゃないと思ってました!」
「ええ、よかったら教えてもらえると嬉しいです!」
(よし、これで後は買ってきて貰えれば一通りトレンドくらいは理解できるだろう)
それから談笑を終えるとユディたちは急いで街に戻っていった。彼らは今、討伐隊"唯一"の生き残りなのだから。
「⋯⋯⋯⋯」
見送った白狼の背後には、突如姿を現す────数百の蟻。
地球に住む普通で考えればかなりアレなのだが、白狼は生憎かなり友好的になったのと一緒に寝食をともにしたおかげか、そう言ったモノから大分溶けていっている。
「春、中々暴れたようだな」
『申し訳ありません!』
白狼が背を向けずにそう一言呟くと、言い訳もせずに黙ってその場で身体を折りたたむ春。そしてその後ろでバツが悪い表情を薄っすら浮かべる夏。
「怒っているわけじゃない。むしろしょうがなかったくらいだ。俺もあまり色々わかっていなかったし、まさかダンジョンに長い事いることになるとは思ってもいなかったから」
『ありがとうございます!!』
「それより春と夏は遅れてやって来たが、この緑色のヤバそうな新たな仲間は一体なんだ?」
(なんか新しい種類の蟻が登場して俺も困惑してるんだけど)
ウインドウも特に出てこなかったし、最初だけだったのか? あ、でもそうだったかも。貴方の力でうんたらかんたらって言ってたし。
『我々は進化したキラーアントです』
(キラーアント?あぁ、確か隠密に長けた個体であり、戦闘力も一通り向上しているとかいう進化派生順に並んでたやつだな)
「おぉ、それはおめでとう」
『有り難きお言葉感謝いたします』
(多分この個体が長なのだろう、たった一人以外は下げた頭をあげようともしない)
『失礼しました。私がキラーアントの女王であり、我らが父の影であります』
白狼の心情を察し、キラーアントの女王は口を開いた。
「凄いな。一瞬のこの有様か、増え方が凄まじい」
『我らが父の為にも戦力は充分に増やす必要がありと判断したまででございます』
(おっと、あんまりこの場で考え事をするのは得策ではないな)
「そうか、とりあえず俺との会話を聞いていたなら話は早い。人間の街に行く前にそれぞれ会議が必要だ」
一言で三人の女王が『はっ!』と少し離れている白狼に付いていくのだった。
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