白狼くん、異世界に来てから初めて街へとやってきたぜ

 「おー!」


 「白虎さん、どうっすか?」


 「いやー!これがザガンの街かぁー!」


 「そんな嬉しいんですか?まぁ俺達は慣れちゃったんであんまり最初の気持ちは思い出せませんが」


 (いやぁーそうだろー!だって俺、異世界に来て初めて人間の街に来たんだから当然じゃないか!)


 デカイなー!どうやらここはザガンの街。冒険者だったら誰でも知っている、ダンジョンの街。


 だから治安があんまりよくない事もすごく多いらしい。⋯⋯だがまぁ俺としては楽な事だ。もはや本職まである。


 何かあったらすぐに暴力で解決!

 素晴らしい!


 ⋯⋯という脳筋はあとにして。


 守衛へと向かうと入るための身分登録として彼らのパーティーを保証人という形で登録し、すぐに冒険者ギルドなる場所へと向かった。 

 見ると中はかなり荒くれ者の集まりって感じで最初は警戒していたが、何故か誰も近寄って来ないのでカウンターにいる受付に声を掛ける。


 手続きは終わってすぐに冒険者プレートやらを入手!ユディたちに礼を言って去ろうとしたところで、彼らの方から食事の誘いが。


 だが────。





 (うんうん、実に美味かった⋯⋯わけねぇ!!)

 

 なんだこの味付けは!?うちの春たちの方が百倍はうめぇんだが!?

 

 「どうですか白虎さん?ザガン名物トルネ肉は!」


 「あ、あぁ⋯⋯美味いと思うぞ」

 

 「いや良かったです!気に入らなかったらどうしようと思っていたところなんですよ」


 (まずいぞ。俺はこの世界でやっていけるのだろうか?)


 嫌な予感がする。日本に慣れすぎて、サービスの質。


 

 白狼の前にドンッ!と強く木製のジョッキを置く店員。



 (まずいぞ⋯⋯味付けもヤバイ。調味料すらついてないじゃないか)


 何も良くない。これに金なんぞ払っていたら、もう俺は末期だ。


 白狼はまだ理解が追い付いていなかったが、王宮は選りすぐりの料理人がいたためまずい評価は変わりないが、とてつもない不味さを感じるほどではなかったのだ。調味料やサービスも、日本にいるからこそである。


 「そういえば白虎さん、冒険者じゃないんですね?」


 「ん?あぁ⋯⋯そうなんだよ。故郷から一人で来てたんだけど、はぐれちゃってな。そんな時に、ダンジョンを見つけてここに住もう!と決意したんだよ」


 「⋯⋯はっ?正気ですか?白虎さん」


 白狼見つめるユディたちの視線が、とてつもなく冷たかったのを当人も初めて感じ取った。


 「なんだ?変な事言ったのか?」


 「いやいやいや!正気ですか!?魔物は知性がないんです!寝る時間もなければ、食料もない、そんな中でどうやって生き残るんですか!?」


 (いや、特殊な事情がなければ俺もそんな事をするつもりはありませんでした)


 「まぁ色々あったんだよ。それより、そっちも大変だったんだよな」


 「そうですよー!あそこで出会う前は地獄だったんですから!」


 「アントが大量発生しているとかなんとか?」


 「間引く為の討伐隊を向かわせたはいいものの、返り討ちです。今、ゴールド冒険者を派遣する為に金を用意しているって言ってましたよ」


 (受付のときの説明であらかた事情は理解している)


 シルバーが既にやられている事を考慮すると、ゴールドはかなりの強者である事は不変な事実だろう。


 俺も、今の所毎日魔力増幅の為の修行は欠かずに行っているが、それでもゴールドに勝てるかは保証がない。

 こういう時に拓海がいないとファンタジーの相手が強いのか弱いのかなんて検討もつかないのだから誰か助けて欲しい。


 早くどうにかしないと。

 アイツらが殺られる前に色々考えなくては。


 「やっぱ金だよなぁ⋯⋯」


 「白虎さんもいよいよ冒険者に!?でも、そもそもシルバーファング相手の下っ端連中をあれだけ潰せたんですから問題ないのでは?」


 白狼のそんな何気ない呟きにユディも反応する。


 「まぁな。危うかったら魔法でも使おうと思ったんだが、案外自力でも通じそうだったから試しただけだった。まっ行けたがな」


 「あれ魔力なしであれだけの動きが⋯⋯」


 「体はよく動かしてからどうにかだけどな」


 前に脱力してコクンと曲げるユディに、肩を組んで慰める白狼。


 「ほら、折角だ。今日は呑むぞ」


 「そうですよっ!今日は金が入らなかった記念で朝まで呑みましょう!!」


 


***



 それから絵に描いたような潰れた若者たちは、朧気な足取りで宿に向かって朝チュン(笑)を迎える。


 のんびりとした朝食を迎え、ユディたちと白狼は別れる。


 「それじゃ白虎さんー!!また会いましょう!」


 「おーう!!」


 (冒険者か⋯⋯金を稼ぐのに持ってこいな職業。やってみるかー?戦うだけなら俺も出来そうだし、魔法や魔術の方も使えるならどんどん使って検証や競合との差も理解できる)


 「だがとりあえず、残った運命粒子コレをどうするかが問題だな」


 まだ全部は使っていない。

 説明的には入手方法の説明がなかったのだが、俺はやはり気付いちゃいけない事実に向き合わなければならないのかもしれないのか、、今。


 白狼はそう悪態を吐き捨て、イベントで巻き上げた約10000コイン(100万円相当)で街を散策するのだった。

 

 

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