偶々助けただけなのに⋯⋯

 俺は今、あまりの成長具合に驚いている。


 ⋯⋯確かこの前まではただの、子供だったはずだ。


 しかしどうだろう?

 目の前には数百の卵が当たり前のようにあり、普通に見たら気持ち悪いレベルの蟻たちがコロニーを作って人間らしい生活をしている。


 ⋯⋯"人間らしい"?

 あぁ、そうだよな。


 説明すると確かに穴道になって下層ダンジョンが開拓されて広がっているのだが、穴を通ると⋯⋯まるで人間の生活していた家のような広がりなんだ。


 玄関があって、細い一本道を軽く数歩分進むと⋯⋯リビングがあって、左を見るとキッチンに近い調理場がある。


 その奥まで歩くと机と椅子。右っ側にはご親切に寝るところすらある。


 ⋯⋯どうだ?人間みたいだろ?


 しかも、驚く事に⋯⋯汚れがほとんどない。


 コレが汚物や糞ともまで呼ばれる魔物の住居なのだろうか?


 俺は未だ信じられないでいる。


 コレって俺が進化させたからこうなったのか、知能を上げたからこうなったのか。


 ⋯⋯ん?どっちも俺か。


 とりあえず今疑問なのが、俺の事を春と夏は『あのお方』だの、『お父様』だのと呼ぶ。


 待ってくれ。いつから俺は二人と如何わしいことをしたのか教えてほしい。まだ女性経験なんぞ微塵もないんだが。


 感情を読み取れるからなのか、俺が汚い事に対する不快感を読み取ってしまってこうなったのか、全然検討もつかない状態が続いている。


 あ、ちなみに時間の経過は正直もう分からない。でも、眠くなって寝た回数なら木の棒で刻んでいる。


 大体30から34くらいだ。

 "くらい"というのは、もしかしたら1日で数回寝ている可能性もあったり、ずっと起きっぱなしという可能性も考慮してのことだ。

 

 話が脱線してしまったのだが、今の俺は、正に女王蟻のような生活をしている状態だ。


 起きたら一周りくらい離れた場所で大量の蟻が俺を守る為なのか待機していて、起き上がるとみんなが嬉しそうに足を地面に叩いて全員に知らされる。


 すると次第にヒエラルキーの高い幹部のような個体が俺の元にやってきて、ペコリと頭を下げる。


 普通に挨拶をすると、『おはようございます、我らが父』と声は発しないが、頭に直接言葉を発してくる。声質はイメージで言うと騎士に近い。


 俺はこの蟻の事をナイトとかって呼んでいる。


 きっとアニメが好きならこの声優さんとかが頭に浮かぶのだろうから、拓海に聞かせた方が早い。


 挨拶を済ませると、これまた当たり前のように蟻が作ったおにぎりに近いスライムゼリーと謎の植物が混ざった形状の食事が提供される。


 最初は違和感でしかなかったのだが、みんなの視線をみると頑張って俺のために作ってくれたようだったから、しっかり食べた。


 結果は美味かった。蟻たちの成長具合が怖いよ、俺は。


 もう、まるで大量の人間が生活しているみたいでちょっと、恐怖すら抱いたんだよね。


 下手したら俺より頭がいい気すらしてくる。とんでもないよな。


 飯が終わると、蟻たちが食器を片付けて今度はおやつ替わりの葉っぱか何かを持ってくる。目の前で頑張って器用に絞ると汁が容器に滴り、それを数回行うと300ミリくらいの容器が埋まる。


 ⋯⋯そもそもここで突っ込みたい。

 当たり前のように食器を作ったり、俺が飲むのを考慮してジョッキの飲み物みたいな容器が当たり前として出てくるのはどうなんだ?本当に人間だろ?もはや。


 そんなこんなで色々堪能させて頂いたあと、ずっと暇だ。


 春が言うんだよ。


 "あなた様ははここでダラダラと過ごしていれば問題ないと"。


 ⋯⋯え?俺、なんか率いてない?

 なんかリーダーっぽくなってない?


 これは予想外だ。

 どうしよう?


 そのままダラダラと過ごしていると夜ご飯。夜ご飯は何かの加工をしているのか、ラーメンに似た何かが出てくる。


 一体魔物がどうやってこんな調理をしているんだろうか?


 誰か教えてほしい。

 とにかく実食──。


 ⋯⋯美味しい。

 ヴィーガンラーメンに近い。

 肉らしきモノはあまり入っておらず、自然の植物から取ったモノのようだ。


 かなりイケる。

 コクもあるし、家系ラーメンを植物の調理で作ったみたいだ。


 みんなに問いたい。


 "俺、蟻に養われているんだけど、このままでいいんだろうか?"


 まずいな。わかるよ。でもどうする?


 みんな俺が上層に上がって行こうとすると、総動員して止めてくる。


 "行かないで"と。


 悪くないという自覚があるからか、全員小さい瞳をうるうるさせながらそう言ってくる。どうしようもない。


 一時の助けだったのだが、これでは俺がダンジョンボスのようじゃないか。


 初心者ダンジョンと書かれてたし、まさか俺がこんな事になるだなんて微塵も思わなかったんだよね。


 ここまで最近の1日のスケジュールを話したんだけれども、今気付いた。


 確かに地球の時はカネを稼いで程々の生活をするつもりだったのは間違いない。


 それは変わらないんだけども⋯⋯どうやら異世界に来てまで急ぐ必要はあったのだろうか?


 もっと落ち着いて着実に基盤を整えていく必要があるんじゃないか?


 更に深ぼっていくと⋯⋯そもそも人類が生きるのには衣食住であるから、服はあるじゃん?食べ物は蟻さんたちがしっかり用意してくれるじゃん?住もカネが掛からないダンジョンに住んでるじゃん?


 "あれ?頑張る必要性って⋯⋯?"


 危ない危ない。意識が持っていかれるところだった。


 ⋯⋯おかしいな?せめてここから脱出はしないとな。


 とりあえずどうするかぁ⋯⋯。

 春たちに相談してみるとするか。

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