蟻が強すぎる件(2)
"コレ"は彼らの誠意である。
"ソレ"も彼らの誠意である。
幼いながらも蟻たちは一生懸命である。
彼らは白狼に何を持っていけば喜ぶかと必死に考えた。
『コレいるんじゃない?』
『でもコレ、同族でしょう?最悪でしょ?』
彼らは"理解"している。
生まれてすぐ中学生の平均値程となった蟻たちは、一人一人に"自己"と"自我"が明確に芽生え、白狼は父親同然だと因子が語っている。
そして、新たに生まれたフローラ種の女王⋯⋯いやそもそも、女王に全てを捧げるのが蟻の習性であり本能である。
そんな当たり前の習性を⋯⋯覆した男がいる。
──その効果はヒエラルキーをも覆す。
女王は
そして、父親が最初に可愛がった春を⋯⋯夏には嫉妬の感情が即芽生えた。
利益をもたらさねば、父親は喜ばないという新たな要素が彼らの中で生まれたお陰で⋯⋯地獄の所業が始まろうとしていた。
『お母さん、アレ喰ってレベル上がったけど、お父さん喜ぶかな?言わない方がいいかな?』
『言わない方がいいわ。きっと同族を食べて暗くなってしまうから。私達は人を食べるのではなく、植物を捧げるの。きっとあのお方も喜ぶはずだから』
蟻たちは"ソレ"を貪り尽くす。
知能がある魔物は誠に厄介。
見ているコチラが色々催しそうになるほど。
蟻たちの手足はすべての身ぐるみを剥がし、必要な場所だけを全て口にする。種の繁栄として他の卵にも栄養を与える為、しっかり保存するところは取っておく。
別に特化しているだけで、食えないというわけではないからだ。
『これ、人間が使う杖だよね?お父さん喜ぶかな?』
『あのお方は武器をあまり使わないように思うから、私達で管理して取っておきましょう』
剥がすと、色々なアイテムや道具が出てくる。彼らは急成長したお陰で様々な理解を得ていた。
──それこそ
『人間って確か魔法を使うのが下手くそだよね?』
『いや知らないよ。私達魔物が明らかに魔力のもっと細かい魔素で出来てるから感覚で使えるだけでしょ?』
一匹の蟻が尋ねると返事が淡々と返ってくる。
『お父さん魔力が結構多いけど、僕達に比べたら意外とだから⋯⋯もっと強くなるように色々持っていかないとだよね!』
『不敬だ』
『ごめんって⋯⋯』
中層では一気に周りに植物が根付き、自ら自然を作り出す能力を発動中の女王である夏がいた。
何もない地面が緑に染まり、壁は蔦や木が生え、まるで魔法だ。
今の所範囲は限られるが、それでも蟻の超進化の具合はおかしい程だ。
粒子に舞う先は全てが自然に様変わりし、夏は一息つく。
(これでいい。)
あの人が喜びそうなのはこのピールという植物だったはず。
私の能力ではまだ根も張れないけど、すぐにでも具現化出来るようにならないと。
***
この群れは、通常で考えられる働き蟻がエリートレベルと言えるほど優秀な為、すぐに制圧と巣作りが迅速に行われる。
夏の因子を受ける子どもたちは、白狼の断片的な情報を感じ取れる為、白狼が普通の人間じゃないことも薄々気付いている。
しかし誰も意見などしない。
我らが父は、偉大であるのだから。
そして彼らはすぐに父親の記憶からダンジョン生物である自分たちを攻撃する冒険者の存在を議論し、対処を練る。
一時間に及ぶ結論、このダンジョンから出る必要があった。
『何か意見のあるものは?』
はいっ!と元気よく挙手する一人の働き蟻。
『外に出て、お父さんの言う森に僕達の巣を作って色んな植物を用意できれば、お父さんは喜ぶと思います!』
おお〜とすぐさま拍手代わりの前足で地面を叩く現象が起こる。
『意見があるのならドンドン出してちょうだい。あのお方は今私達の為に魔力を使い切る寸前ですから』
『出るってことは、お父さんに迷惑は掛からないのでしょうか?やっぱりお父さんに迷惑が掛かると良くないと思うので』
またもおお〜と納得する声が色んな場所から聞こえてくる。
『でもどうするんだ?ここでは冒険者たちの話を聞いた感じ、弱い奴らしか来ないし、今の群れでも十分に殺られる可能性を秘めてる。出ないと色々危ないから分散しないと』
『あぁっ、なら⋯⋯少数の家族が出張に向かって、外で巣を作っていこうよ!』
『それは良い案だな。それなら、親父に気付かれずに外へと出た上で、専用の宮殿をつくることもできるんだからな』
進む議論の末、外に少数出るということが決定し、すぐに行動に移された。
この僅か数週間後、とある森で、危険度C+判定のアントが頻出して危険地域になるなんて予想外の事が起こることを白狼が知る由もなかった。
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