2日目、見た目に慣れません

 2日目。白狼は何時かもわからない時間に目を覚ますと、目の前には口をカチカチ動かす蟻が三匹白狼の周りに居た。


 「うわァ!!」


 白狼の大声に三匹の視線は白狼に向く。


 「「「⋯⋯?」」」


 「あぁ、悪い悪い」


 (まじで寝起きに悪い。マジで喰われるかと思ったわ)


 ファンタジー規格になると、蟻ですら恐怖の対象だわ。


 ボサボサになった髪を掻き上げながら起き上がる白狼。


 「おぉ、おはよう」


 「「「カチカチカチカチ」」」


 「うん、何言ってんのかわからん」


 あれからしばらく経って上層にいるスライムを狩ると、スライムからスライムゼリーというのが一定確率でドロップする。


 (スライムゼリーを何かに使えないかと思ったら、イイ感じに食料代わりになったんだよな)


 例えるなら、某ウ○ダー。

 中々落ちることはないんだが、とりあえず数時間数個は出ることからここ2日⋯⋯なんとかそれで過ごしている。


 「カチカチカチカチ⋯⋯」


 「あぁーほれ」


 白狼がマジックバックからスライムゼリーの一部を渡す。


 (カチカチカチカチ永遠に聞こえるのが若干不快なのだが、彼ら彼らで一生懸命意思疎通しようと頑張ってる)


 「カチカチ」


 (1匹の蟻は、やたら俺のことが気になっているように見える。もう二匹は別に普通だが、メシをくれるからなんか気になってるみたいな感じか?)


 地球の蟻は働き蟻ばかりだったし、こういう風に行動しているのを見ると結構面白いんだな。


 「⋯⋯ん?」


 (よく見ると、女王蟻が生む卵の量が増えた気がする。もしかしたら、俺のスライムゼリーのお陰か?)


 「カチカチ⋯⋯」


 卵を放置して、女王蟻が白狼のところへ向かう。


 「おーおーどうした?必要なら俺が行くよ」


 静止させて白狼は女王蟻のところへ。


 「んで? どうした?」


 「カチカチカチカチ⋯⋯」


 「やっぱり分からん」


 何度もカチカチという音を鳴らす女王蟻だが、次第に白狼も何を言いたいかを若干理解したような気がしている。


 「食事のお礼とか?」


 食べる仕草を少し見せると、女王蟻はそれに大きく反応した。白狼は飯のお礼が言いたいのだ理解して、「大丈夫だ」と蟻の頭部へとゆっくり手を伸ばし、抵抗がないのを確認すると頭をゆっくり、そして優しく撫でた。


 (相手は蟻なんだが⋯⋯なんつーか、施設時代の癖が)


 「⋯⋯⋯⋯カチ」


 「いつも頑張ってるな、お前は孤独だよな。生み続けなければ、種は滅びてしまうのだから」


 「カチカチ、カチカチ」


 「ん?」


 女王蟻は撫でるのを止めた白狼の手を触った。


 「なんだ?人間みたいだな」


 意図が分かった白狼はそのまま撫でる。

 女王蟻は何故かそれから、白狼を自分の卵を産むすぐ隣まで来て欲しいと言い、その隣で白狼に頭を撫でてもらうという通常の光景ではほとんど見られないモノがこのダンジョンの下層で行われていた。


 



 3日目。女王蟻は白狼が帰ってくるのを見るなり、すぐに働き蟻に行かせて自分の場所まで来て欲しいとアピールをするようになった。


 これでは構ってちゃんメンヘラ蟻である。


 「どうした?今日も撫でて欲しいのか?」


 「カチカチ」


 撫でてやる白狼。女王蟻もどこか嬉しそうに体を畳み、白狼の隣でゆっくり休んでいる。


 「あれ?そういえば⋯⋯1匹消えた?」


 (起床した時にはまだ三匹いたはずなのに)


 確かここ、結構脇道で、初見だとまず気付かんような場所だったしな⋯⋯。


 「もしかしたら、冒険者に狩られちまったのかもしれん」


 (結構寂しいもんだな)


 その後数時間後、もう一匹も帰ってくることはなく、残りは女王蟻と最後の蟻のみとなった。そして更に一日が経つと、遂にもう一匹も帰らぬ人ならぬ⋯⋯帰らぬ蟻となった。


 

 「俺達だけになっちまったな」


 「カチカチ⋯⋯」


 (結構キツそうだな。兵隊もいないんじゃ、飯も満足に採れねぇし)


 「待ってろ、俺が何か喰えそうなモノを取って来てやる」


 「カチカチカチカチ⋯⋯」


 「ぉおん? 大丈夫、すぐ戻ってくるよ。別にアイツらとは違うって」


 白狼を見つめるその瞳は、蟻ではく、もはや人間のようだった。


 (流石にあんな顔されちゃ⋯⋯雑に相手できねっつーの)


 ⋯⋯白狼は案外イイヤツだった。



 

***



 「食えそうか?」


 白狼がスライムゼリーと残り少ない肉を少量分け与えると、女王蟻はバクバク美味しそうに平らげる。


 「卵も今の所50くらいはあるのか?」


 (この世界での生態は全くわからんが、50個とはいえ、ファンタジー規格となれば⋯⋯これでもかなり迫力のある絵面だと思うな)


 「おう?どうした?」


 すると白狼の目下には、一つのウインドウが出ていた。


 

 [魔物:クイーンアントの友好度が高まります]

 

 [種族:アントとの親交度が上昇します]


 

 「なんだ、好意を持ってくれたのか。卵の近くに来させるくらいだから、まぁそれなりのアレはあるか」


 (子供を知らないやつに預けるようなもんだしな)


 「そういえば、この階層ってお前以外いなさそうだけど、他はどうなってるか知ってる?」


 女王蟻は首を傾げる。


 「そうだよな、悪い悪い」


 (毎日中層辺りは冒険者たちがよくいるのは見かけるが、下層にはあまり来ていないように思える。冒険者のレベル的にはかなりきついような強さをしているんだろうか?)


 「お前も子供がいなくなっちまって辛いだろうが、俺がスライムゼリーを取りに行ってる間にできる限りの事をやっとけよ?」


 「カチカチカチカチ!」


 (おー⋯⋯なんか俺の言葉が通じてるのか?意思疎通が若干できるようになってる気が⋯⋯)



 ──そして5日目。遂に白狼が全ての元凶となる事件が始まろうとしていた。


 

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