脱出編
全ての始まりの日(2)
開いた大扉を通り抜けると完全に帰る道はギィィ、と完全に閉ざされる。
「ま、そういうこったな」
(先に地獄の訓練やっといて良かったぜ)
チラッと見ていた背後から視線を戻し、目の前に広がる神々しい空間を再度見つめる白狼。
(すげぇ⋯⋯。オリンポスとかの神話みたいな場所だな)
スローペースで黄金のカーペットの上を進みながら、周りを眺める。
「これは?」
黄金のカーペットから左右に見えるのは、誰かの石像。
正確に表現するならば、左側には悪魔のような風貌をしている男女。
右側には天使の羽が生えた男女が。
それらがまるで美術館のように何処までもズラーっと並んでいる。
(入る前には気付かなかったが、この空間⋯⋯相当広いぞ)
ここから見えるだけでも終わりが見えない。つまりこの先にも石像が続いているということだろ。
白狼は試しに近くの左側にいる(仮)悪魔側の一人の像の前に立ち、観察を始めた。
「あ、名前がある」
像の少し下側に表札のように名前が書かれたプレートが設置されているが、時間の経過による劣化のせいで、よく見えない。
白狼は手で汚れを払う。
がしかし、それでも名前は所々欠けている。
「第⋯⋯6軍団長⋯⋯かな? オビューロ?」
(ていうか、俺翻訳の魔導具マジックバックに予備入れてたの⋯⋯本当神だろ)
この世界に来て、俺達はスキルを与えられたが、肝心なモノが無かった。
それは"言語の翻訳"だ。
俺はたまたま拓海の隣で聞いていたからその効果が反映されたと現在は思われるが、他のみんながその時ポカンとしていたのも、コレが原因だ。
だが、昔にいた偉大な魔導具師の作った翻訳の魔導具を使う事によって⋯⋯こうして俺は日本語として読む事が出来ている。
「まじで神様やこの道具は」
白狼は黄金のカーペットから外れて特に何もないことを確認し終えると、次々像の表札の汚れを落としながら名前を確認していく。
「ピサロ、オリージィ⋯⋯読めねぇ」
(日本人の名前が染み付きすぎて、西洋の名前が頭に入ってこねぇや)
そうは言いながらも、白狼は頭にとりあえず名前の雰囲気だけでも叩き込もうと一つずつ汚れを払って石像の顔と名前をなるべく回っていった。
・
・
・
「まぁ結構雰囲気は分かったな⋯⋯そしたら──」
(こう見ると、まるで天使と悪魔の最終決戦みたいだな)
ちょうど左に並ぶ石像たちは右側を例外なく睨みつけており、右側の天使っぽい風貌の男女も例外なく左側を見つめている。
「そして、このカーペットの上に立つ謎の俺」
なんか変な感じがして鼻で笑う白狼。
一通り見終えた白狼は黄金のカーペットの先──階段とその上にある玉座に向かって足を進めた。
「やっぱりアレか?」
(アルメニアの言う定義上という言葉が引っかかるが、俺はこの玉座に一生座り続けるとか、そんな退屈な事をさせられ続けるとか⋯⋯ではないよな?)
だとしたら死んだほうがまぁマシだろうな。
コツ、コツ。
白狼は最悪の未来だったケースを頭に浮かべながら階段を上がり、遂に下から見上げていた玉座の前へと辿り着いた。
「随分豪華なこって⋯⋯それで、コレに座ればいいのか?」
そのまま座ることはなく、玉座周りに何かあるのではないかと、白狼は軽く目を向けた。
あるのは、浮浪者のような絵画らしきものが石柱に飾られている何点かと、一人の黒髪ロングの絶世のイケメン。
もう一人は男が求めるような全てが揃う美女。あまり恋愛に疎い白狼ですら、美女の方はわざわざ静止してジッと見つめてしまうほどだった。
「ほえ〜すげぇ綺麗。この写真ネットに上げたらイイねがヤバそう」
(こっちのイケメンもだ。セルフィーでこの人上げたら腐女子から色々コメント来そう)
「元々ここにいた人たちだったのか?だとしたらこの玉座の豪華さも納得だが⋯⋯」
あるのはたったそれだけだった。
肩透かしを喰らった白狼は悶々としたまま玉座に軽く座り、左右に見える天使と悪魔(仮)の石像を見続ける。
「⋯⋯⋯⋯で?」
(これで何も起こらなかったら、アルメニアに文句の一つでも言いに行こう)
悪態をつき終わったと同時、白狼の眼前に一つウインドウがまたも現れる。
[マテリオンの鍵を所有する者の滞在を確認。]
[鍵を掲げよ]
「⋯⋯掲げる?こうか?」
古びた鍵を白狼が言われた通りに掲げると、鍵が発光し、更に追加でウインドウが現れる。
『スキルを受け取りますか?』
[はい/いいえ]
[1度いいえを選択すると二度とクラスを獲得する事はできません]
「クラス⋯⋯?一体なんの話だ」
(まぁ⋯⋯でも、門番の前でも死ぬよりマシだって大見得切ってるし、一択だ)
はいを選択する白狼。
すると追加でウインドウが。
[本当によろしいですか?]
(やっぱりおかしいよな。門番の時もそうだし、どんだけマズイもんがあるんだ?)
それから白狼は何度もはいを選択しても、
『本当によろしいですか?』
『しっかりと考えた上で⋯⋯』
『ここはしっかりと熟考することが⋯⋯』
『思考が浅すぎます⋯⋯』
「ぬわァァァァ!!何回聞き返すねん!!」
(はいだって言ってんじゃん!!)
「はい!聞き返すのはやめてくれ!!」
すると、今まで機械的だったウインドメッセージが、[今、適当に連打していますよね?分かっていますよ?]と、突然人間が打っているようなメッセージが白狼の前に現れる。
「あんた、本当は人間なのか?」
[違います。何も考えずに押している事がどれだけ浅はかな事か理解していなさそうだったので忠告と危険文を送っているのです]
「ま、まぁ⋯⋯とりあえず分かった」
(まぁ、でも現状俺に選択権なんてないんだけどな⋯⋯)
[まぁここから出れるわけでもないし、押すしかないんだろうなと思っていると思いますので、これ以上突っ込みを入れるのはやめておきます]
「⋯⋯心でも読めるのかよ」
[それくらい容易に想像できます。ではこれで本当に最後です──本当によろしいですか?]
「あぁ」
すると突如この空間がゴゴゴという轟音と共に立てなくなる程大きく左右に揺れ始めた。白狼は予想外過ぎて玉座から落ちないように必死にカエルのように抱きついて揺れから身を守る。
だがその中、白狼の目の前にウインドウが。
[スキル?,クラス:運命の放浪者を継承しました]
[変更の儀を終えた為、強制的に転移します]
「はぁっ⋯⋯!? スキル?クラスなのかはっきりしろや!! 変更の儀ってなんやねん!! どこに転移するんや!!」
白狼の言葉を受け入れることはもちろん無く、身体は発光して僅か数秒でこの玉座から忽然と光が霧散し姿を消すのだった。
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