全ての始まりの日(1)
「おぉ⋯⋯コレは効果絶大だな」
現在白狼は体内で魔力を上手いこと循環させている最中。
体から1ヶ月近く継続して魔力を枯渇させ、隅々まで行き渡らせるように出来るだけ行った白狼の努力は半分ほど実った。
放つ青い魔力は白狼の体を覆うように丸く整っている。
だがしかし体から溢れる魔力はまだ30cm以上も厚みがあり、これを著者であるヴィーヘンアルナスはほぼミリ単位まで縮めて制御するということまでやってのける化物みたいな人間である。
「まだ覆う魔力は結構あるな。もっと縮めて薄く全体に継続させれるのにはさすがに時間が無さ過ぎるか」
とはいえ、白狼の気合いと根性論はかなりの才能である。
このやり方は、あくまで著者のような化物クラスが脳筋的にやるものであって、本来は何年、何十年単位で行うものである為、1ヶ月という時間でここまで出来るのもかなり才能があるということだ。
「この苦痛みたいな感覚もだいぶ慣れてきて⋯⋯もう少しで家族になれるところだったのに、そろそろ保管庫の備蓄が後1週間くらいしか残ってないから、そろそろ覚悟を決めないとな」
この一ヶ月、白狼はこの本棚にある本の約7割程を読破した。
ジャンルは様々ではあるが、主に魔法関連である。
魔術と魔法の違いを始めとした、この世界での魔法の使い方である基礎、そして応用。
白狼は拓海と読んでいたあの頃とは別人のような知識量が頭に入っていた。
「折角魔力を久しぶりに回復させたんだ⋯⋯ちょっと遊んでもバチは当たんないよな?」
(
そう心の中で念じると詠唱は起動し、体全体に先程のような魔力の形が具現化したオーラが白狼の体の周りをウネウネ彷徨っている。
「この机を借りるか」
近くにあった無人の長い机を片手で軽々と持ち上げる。
ちなみにここに来た当時の白狼はこれを持ち上げることはできなかった。
⋯⋯この強化魔法を覚えたからこそ成し得たことだった。
「重さは豆腐以下だな」
(これならかなり使える。今後も有効活用できるよう、魔力の増幅は最優先だな)
机を降ろして魔法を解く。
「魔力消費もかなり軽減した気がする」
(最初使ったときなんてとても維持出来るようなものじゃなかった)
これなら低レベルな魔物くらいだったら何とかなる⋯⋯まぁここは多分下層または深層だから、俺なんてミジンコ以下なんだろうけどな。
「さて、強化魔法は結構良かったし、他の魔法も使いたい所だけど、まぁ今はお待たせしているあそこに行きますか」
・
・
・
「随分予定が狂ったが、生きてるか?番人さん」
『はい、私に寿命はありませんので』
「そりゃそうか⋯⋯」
白狼は色々準備を終わらせると、1ヶ月前に一旦放置したこの大扉の前にやってきた。
「確かこの鍵が必要なんだったよな?」
白狼が古びた鍵を取り出すとAR拡張の門番が即座に反応する。
『マテリオンの鍵の所有者を確認。この先に──』
「ちょっと待った」
白狼は手で門番の言葉を静止させる。
「マテリオンの意味は?」
『その質問にはお答えできません』
(やっぱり駄目か)
「あなたを作ったのは誰だ?」
『私や創造主についての情報開示は不可能です』
「これも駄目か⋯⋯じゃあこの手前の部屋の主は?創造主か?」
『質問にはお答えできませんが、この手前の部屋は、外敵用の力が働いていますので、魔王が来たところで問題ありません』
(何故か門番さんに感情が宿っているように見える。創造主とやらは相当凄いらしい)
てことは、俺の予想は大当たりだったわけだ。ガッツリ地獄用訓練しておいてよかったぜ。
「それじゃここは何層か答えられるか?」
『ここは99層の隠れ部屋です。通常であれば絶対に入る事はできません』
門番のその言葉に、白狼は首を傾げる。
(え?いや、普通にあったんだけど⋯⋯?)
「誰でも入れるの?」
『そんな事はありません。正式な手続きを踏まなければ開くことはありません』
(じゃあ俺は、何かしら特別なやり方を勝手にやってたってことか)
白狼は嘆息し、最後に重要な一つを門番に尋ねる。
「そうか。ごちゃごちゃ質問して悪かった。次で最後だ──番人さんから見て、俺がここからダンジョンの外に出ることは出来るか?」
『不可能です』
悩む素振りすら見せず、番人から当たり前のように返事が返ってくる。
「なんてすまし顔してんだよ。つまり最初から⋯⋯俺はここを通らないと死ぬって事だろ?」
白狼はニヤニヤ嗤った。
「性格悪いぜ?」
『⋯⋯想定したことをお話しているだけです』
(言い換えるなら、俺は謎の力で導かれた⋯⋯というよりも、ここに来るのがほとんど決まっていたってことか)
「なるほど。なら、通るよ。さすがに無抵抗のまま死ぬ性格ではないんでね」
[もう一度問います。この先へ進めば、定義上通常の人間らしい生活はできなくなります。ほんとうによろしいですか?]
両手を腰に当て、白狼はクスッと鼻で笑う。
「聞きたいことは山程あるが、仕方ないだろう?なんにも教えてくれないんだから」
[所有者の承認を確認。扉を開放します]
「いや無視かよ⋯⋯」
錆びた扉がキィィと、大扉が自動でゆっくりと開いていく。
扉の先から徐々に入ってくる眩い光が白狼の頭から足までを照らしてゆく。
[では所有者、『安久津白狼』。これからの人生に最大の至福を]
その言葉に白狼はハッと門番の方をチラ見する。
「なんで知ってんだよ、俺の名前」
『⋯⋯⋯⋯』
「応答しろよ」
(俺の予想が正しかったのか?俺がこうすることを見越して、最初から⋯⋯)
白狼は横に首を振る。
いいや。結局のところ今はどうでもいいか。
白狼の両目には、奥に見える正に神殿という言葉に相応しい神々しい場所。
細長い石柱がいくつも並び、中央には神の歩く道だと言わんばかりの黄金のカーペット。奥には階段があり登った先は一つの王座。
まだパッと見の景色ではあるが、それでも十分な威圧感と荘厳な光景であることに変わりはない。
「さて、門番の言う通り⋯⋯普通の人間卒業記念に、堂々と歩きますかねぇ」
白狼は一歩片足を踏み出して、振り返る。
「門番さん、名前は?」
『⋯⋯名前はありません』
「嘘つけ。名前は?」
『昔、アルメニアと呼ばれていました』
「じゃあな、アルメニア。この先生きるのか死ぬのか俺には分からないけど」
『お身体にはお気を付けて』
「ふっ」
鼻で笑う白狼は、そのままアルメニアを背にして開いた大扉の中へと堂々と入っていった。
ギィィ、と。その大扉は閉じ、アルメニアはボソッと呟く。
『今度はいつ起きる事になるのやら』
全てはここから始まった。
この世界で敵味方関係なく世界を荒らす──無法者と呼ばれる男の伝説が。
以上ここまでが序章で、次からやっと本編です。
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