読書

 「あぁ⋯⋯やべぇ死ぬぞこれ」


 傍から見れば白狼の格好は本に埋もれた大学院生である。


 大量の本に埋もれた白狼が顔をひょっこりと出し、相変わらずの景色に溜息すらついた。


 「誰もいないと声に出したくなるもんだな」


 あれから日付はおよそ3日が過ぎた頃。

 

 当初の白狼が想定した予定ならば、数時間もすれば扉についての結果について考えるつもりだったが、本棚に並ぶ様々な本を読んでいる内に⋯⋯一つの本と出会った。


 それは『魔力の増やし方』の本である。


 実は白狼が一番最初に騎士団との基礎訓練時に言われた事だった。




 『安久津殿はやっぱり無属性魔法を使えるようにしたほうが良いだろう』


 『無属性魔法ですか?』


 『あぁそうだ。この世界に来た時点で、恐らく誰もが魔力を宿しているはずだ。少し手を借りるぞ?』


 頷く白狼に握手をするように掴み、イオットは魔力を流し込んだ。


 『⋯⋯お?』

 

 『凄いな。入ってきたのが分かったのか?』


 『ええ、凄いですね⋯⋯魔力って』


 『そうだ。これが全ての素となる魔力だ。他の者たちはある程度の感覚をスキルで賄うのだが、安久津殿は感覚で理解するとは⋯⋯やはり私の経験則は嘘をつかないようだ』


 (お兄ちゃんが気がどうたらこうたらと、色々やってるのを傍から見ていたお陰で、すんなり魔力を理解できた)


 『だが、無属性魔法には弱点がある』

 

 『弱点?』

 

 『あぁ。消費魔力が異常に多いという事だ。というのも、無属性魔法には強化系統の魔法が多いのだが、それは発動してからもずっと維持し続けないといけないという制約に、自分の足りないところを魔力で補うということだ。かなりの魔力がないと、安久津殿はかなり厳しい状態になってしまうことはこの先すぐに分かることだろう』


 (だよなぁ〜。この先レベルアップに応じて全員の身体能力やスキル練度も大きく変わってくる。その際俺だけレベルアップの恩恵を最大に活かせないということだし、いずれ他の奴らに負ける可能性がある)


 『やっぱりその魔力って⋯⋯増やしたりすることは出来るんですか?』


 『まぁそうなるだろうと思っていたが、残念だが──魔力の増減はレベルアップと一部の禁忌に近い投薬などでしか上昇しない』


 『そうですか。ありがとうございます』


 『それと安久津殿には言っておきたいことがある』


 少し暗い表情を察したイオットが、鍛錬に戻る白狼を呼び止める。


 『どうしました?』


 『実はだな、スキル関連は後からでも授けられる事があるそうだ。もしかしたら、いつか神が行いを見ていてくれれば授けられるかもしれないから⋯⋯焦らず地道に積んでいこう』


 『⋯⋯そうですね。ありがとうございます』


 

 


 (そう、増減しないはずなんだよな)


 戻って増減の書類を読むと、面白いことが書かれてあった。


 まとめると、



 →魔力が0になるということは生命そのものが死する。

 だからほとんどの人間は魔力をギリギリまで使うことはしない。使うとしてもほとんどの人間は死に貧した状態の時のみしか起きないため、誰も気づかない。


 →そして著者であるヴィーヘンアルナスは、操作しやすい初級、それも無属性で本当にギリギリまで魔力枯渇させるという実験を行った。


 →著者の予想は、枯渇している状態が続くと、生まれてからそう教わる通りだと言われていた生命力を凄まじい速度で失い、その状態が維持し続ければ、自然回復力すらも消費する状態が永遠続くために老化や魔力細胞が著しい損傷を起こし、それが続けば続くほど魔力の脱却が起きるのではないか?という仮設を並べた。


 →だが結論は違った。

 ⋯⋯結論は自然回復力が微弱だが上昇した感覚が。

 老化や魔力細胞が損傷したというものの確認は取れず、その状態のまま1日を過ごしたという。


 →そこからまた一日魔力を全快させるまで時間を戻した結果、体内にある魔力の感覚的な容量が増える感覚を得た。


 →再度実験。同じようにやり続けた結果、自然回復力の上昇がまたほんの少し変わり、同じような生活を暫く続けた。


 →半年ほどそんな生活を続けた結果、この実験から自然回復力の上昇と魔力容量の器を⋯⋯広げる事が可能という実験結果となった。


 →著者はとてつもない魔導師と呼ばれ、高い制御率で行った為か、通常の数十倍の結果が得られた。


 →当初の仮説は完全に崩れさったが、しかし別の角度でこの結果を当てはめることが出来たのである。


 "歳を取るベテランの騎士や魔法使いたちが自然と魔力量の増加が起こり、様々なスキルによる使用した魔法が何故か使いこなせるようになる"


 といった現象にこれがまさに当てはまったのである。


 彼らは実験時のような自傷行為に等しい行動を小さく続け、常に死戦へと出向く度に瀕死になる彼らの容量は⋯⋯徐々に年数とともに最大魔力容量が増えていくということがここで現実になった。


 これらの実験結果を詳細に纏めた書物が白狼の目に入り、すぐに目を通して得た事だった。



 ⋯⋯時は遡って読破直後、白狼は早速この枯渇と増幅作戦を実行した。


 例えるなら、血管の中に虫が蠢くような精神的に拒絶する状況が永遠続く感覚に最も近く、白狼はその耐え難いモノに全力で耐えた。


 (スキルが無い自分にとって、魔力を増幅させて無属性魔法に変換させるにはこれしかない!)


 苦痛と叫びの数時間だった。

 白狼は見事たった数時間だが、その地獄の一歩を耐え切ったのだ。


 (後は自然回復力で最初の感覚とどれだけ離れたか体感検証させてもらう)


 白狼は一旦この部屋で睡眠を取り、起床後に感覚を確かめると⋯⋯確かに感覚が変わった事を覚えたのだ。


 (制御にはとてつもない苦痛と集中力が必要だが、俺にはコレをやるしか方法がない)


 それからこの苦痛の時間を、まるで筋トレの容量の如き手法で制御の時間少しずつこの数日で伸ばしたのだ。


 そしてその手法を本格的に取る前。


 物色していた白狼はここで書いていた本人であろう机から謎の食料と水が貯蔵された保管庫を発見した。


 そのお陰あって──白狼は食料と水を手に入れ、こうして時は現在⋯⋯本に埋もれた山の中で制御をし続けながら新たな本を読む→制御→読むを繰り返して早3日になるという訳だ。



 「さすがに感覚は慣れてきたけどさ、辛すぎて声に出していないと⋯⋯まじで病みそう」


 ペラペラ本をめくる白狼は、今読んでいる『魔術とは何か?』という初心者向けの本を読破し、次の本を手に取った。


 「水・食料と安全そうな部屋。とりあえずマジックバックにしまえないという点を踏まえて、出来るだけ多くの本を読破するぞー」


 栄養は割とあるはずの白狼だが、何処かやつれた表情をしながら⋯⋯片腕を突き上げ、棒読みで制御と読書を並行して行った。

 


 そしてこの生活は──ここから約1ヶ月近くも続いたのだった。

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