マテリオンの扉
(⋯⋯ん?)
ビビって目を閉じたまま扉の中へ入った白狼は、数秒何も起こらないと目をゆっくり開ける。
「⋯⋯⋯⋯?」
開けるとそこは、暗闇に包まれた細い一本道だった。
(また暗闇⋯⋯。どんだけ不便なんだよ、異世界は)
松明に火をつけ、白狼は慎重に細い一本道を進んでいく。
(とりあえず、あの本棚は異質だ)
魔法関連だけではなく、魔導工学や薬師についての事も、様々なジャンルについての執筆がされた。しかも、同じ著者が。
よく分からない。同じ著者の本があんないくつもの本棚に入っているなんて。
もしかしたら──あの部屋は、大昔に存在した有名な魔法使いが遺した遺産なのかもしれない。
そう考えれば、ここが王家所有のダンジョンだと言うこともかなり納得がいく。
ただ、正当な攻略の仕方ではないのが⋯⋯中々罪悪感を感じる訳だが。
そうこうしていると、白狼の瞳に光が入り込む。
「⋯⋯ん?」
両脇に浮かぶ蒼い炎。
そして、縦横10m以上もありそうな鉄製の、それにとても頑丈そうな大扉。
白狼の瞳はそんな大扉に埋め尽くされた。
「なんだこれ?」
軽くノックしてみても反応はない。
引いても押しても開きそうにない。
(もしかしてダンジョン攻略の座学で言っていたボスドロップアイテムが必要だったりするのか?)
白狼は訓練前、座学でダンジョンの体系的情報を頭に入れさせられていた。
各ダンジョンには難易度があり、そのダンジョンに応じた報酬が用意されている。それ故、多くの人類はこのダンジョンに入って生計を立てる事を夢見ている者が多い。
そして中でも高難易度に多くあるのは、下層まであるダンジョンには上層、中層と存在するボスモンスターを討伐し、そのアイテムを後に使用し、攻略を完了させるという事。
この先には恐らく下層、または深層のボスモンスターがいるということだと理解した。
白狼は「やっちまった」と気付けば手で顔を覆っていた。
「まーじかよ⋯⋯じゃあ、俺はダンジョンボス前の休憩所に入っちまったわけか?」
つまり、俺はここから先には進めないということになる。だとすると、俺がやるべきことは一つ。
(来た道を戻り、上層まで戻ってダンジョンの外へと出ること)
「なら、俺はどうしようもないな」
(てことはあれ、下層、または深層の報酬の一つって事になるよな?貰っちまうか)
多少の罪悪感を覚えつつも、引き返そうと大扉を背にした⋯⋯その時だった。
「⋯⋯うん?」
白狼の首元が微かに黄金色に発光していた。理由はわからないがとりあえず発光元を探ると、『ネックレス』代わりに使っていた物だった。
(あ、これ⋯⋯おばあちゃんに貰ったやつ)
勿体無いと思って、頑丈な紐を通してネックレス代わりにしてたんだよな。
白狼が貰った物をよく見ると、だいぶ年季の入った古びた鍵だった。
「貰っただけで速攻ネックレスにしちゃったから、あんま何貰ったのかを知らなかったな」
(とりあえず発光している原因はこれのようだし)
大扉に向き直す白狼。
「おばあちゃん⋯⋯何者?」
コレを貰う時に言われたおばあちゃんの一言が今になってすごく染みる。
鍵を大扉に向けると、突如大扉からAR拡張のようなウインドウが白狼の前に出てくる。
[この扉を開く為にはマテリオン神殿の鍵が必要です]
[鍵の構造を確認。]
[マテリオン神殿の鍵だと確認]
[扉を開きますか?]
「扉を開く確認⋯⋯?」
(まぁ⋯⋯確かにこの先にダンジョンのボスがいる訳だから当たり前⋯⋯なのか?)
ゲームとかラノベを読んでいない自分には、あまりわからん。とりあえず異世界パワーというのはやはり凄いということしか分からん。
「俺の言ってることは分かるのか?」
(通じるなら色々聞きたいことが山ほどある)
[はい。]
予想していなかった返答に白狼は「おぉ」と少し後ずさる。
「なら聞かせてくれ。この通知は一体何の為だ?ダンジョンボスが圧倒的に強いからとか、世界を滅亡に見導くようなお伽噺的物が眠っているからか?」
白狼の質問から10秒程経過すると、一つのウインドウが返ってきた。
[否定はしません。カテゴリ:魔物のような危険な生物はいませんが、この先に入る覚悟がなければ引き返すことをおすすめします]
(危険な生物はいない?
なのに入るか尋ねるのか?)
「どういう事だ?さっぱり分からん」
[一度この扉をくぐれば、定義上二度と普通の人間生活を送る事はできないとだけ申し上げます]
(とりあえず普通の場所ではないってことか)
異世界に来てからとりあえずが好きになりすぎてるな。情報過多って奴だよ。
暫く髪を掻きまくる白狼。
その脳内は、危険生物がいないが、何故か普通の生活が送れないという摩訶不思議な返答にどうすればいいか迷っている。
「一旦考えさせてくれ。数時間もしない内にまた戻ってくるから。この表示はまた現れるのか?」
[はい。私は創造神によって作成された番人のような物です。いつでも鍵の所有者の呼びかけに応じるように出来ています]
(──異世界でこれだけの技術⋯⋯創造神とも言ってる。てことは、相当ヤバそうだな)
「すまない。少しそこの部屋で読書してくる」
一度落ち着きたいと思った白狼は、大扉に背を向けて、書斎部屋に戻っていった。
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