現在地不明

 「とりあえずここが何層で、食料や武器なんかの確認をしなきゃな」


 一旦起き上がる白狼。視界はほとんど真っ暗で何も見えなかったが、マジックバックに入っていた松明を付ける。


 「マジックバック様々だな」


 ボウッ、と松明に火がつき、周りを確認する。


 (穴⋯⋯?)


 白狼の視界は、人5人分くらいの大きさの穴がそこら中に空いていて、集合体恐怖症にとっては地獄みたいな場所であった。


 「動かずに周りを見てっと⋯⋯」


 上層のダンジョンは結構空間が広くてオープンなイメージだったけど、ここは鉱山みたいに狭い通路ばかり。まるで迷宮だ。


 (地面もヤケに硬いし、ここは結構深層⋯⋯ん?)


 白狼は何か様子がおかしいことに気付く。


 「なんだこれ?」


 松明で自分の真正面を照らす。


 地面は勿論土一色になっている。

 だが、白狼が照らす真下は、何故か真っ黒・・・であった。


 何か異変に気付いた白狼の心臓の鼓動は一瞬で大きく打ち出す。


 恐る恐る自分の目下周りを照らすと、その正体に思わず素っ頓狂な声が漏れでた。


 「うわっっ!!!やめろって〜!なんだよお前」


 その正体は真っ黒な甲殻に包まれた蟻の死骸だった。よくよく見れば、この辺りにチラチラ蟻の死骸が散乱している事実に気付き、大きく溜息混じりに深呼吸を数回繰り返した。


 白狼はすぐに蟻の死骸から飛び降り、周りに異常がないか確かめる。


 「うわぁ〜⋯⋯最悪だ」


 何となくどうしてこういう風になっていたのかを白狼は察した。


 それを確認するかのように自分がいた隣を見つめると、そこには肉片となった巨人ゴブリンだったものがそこにはあった。


 「やっぱりか」


 おそらく、落ちたこの地点に蟻の形をした魔物が丁度歩いていたんだろう。そんでそのタイミングで俺はこの硬い蟻たちとぶつかり、クッションになったおかげで助かったというところか。


 「ということは、この蟻は魔物ってワケだよな?」


 静かなこの穴道の数々⋯⋯嫌な予感しかない。


 (蟻の巣⋯⋯じゃねぇよな?)


 今見えるだけで死骸は10体以上だ。全然可能性としてはあり得る。


 蟻の大行進とかしている最中だったりしたら急いでこの場から逃げるようにいなくなったとかな。


 (だとしても⋯⋯ここから早く居なくならないと)


 蟻の巣ってことは⋯⋯子供も大人も混じってることだろう?


 「そうとなれば、ゴブリンさんから身ぐるみチェックしないと」


 白狼は手慣れた手付きでゴブリンの装備していた武器やアイテムなんかを確認していく。


 全部を確認するのに、4分も要らなかった。

 

 「この大剣といくつかの武器はマジックバックに⋯⋯」


 入れようと思った白狼だが、大剣が大き過ぎて、バッグにすんなり入っていかない。


 「ぐぐぐぐ⋯⋯入んねぇ!!」


 (くそっ、コイツの大剣かなり強そうな見た目してるんだから、後で使えると思ったのに〜!!)


 「仕方ない、諦めるか」


 大剣以外のアイテムをマジックバックに詰め込み、自分が衝突した蟻の死骸を見ながら顎に手を当てている。


 (流石にアレだろうけど、この蟻の死骸⋯⋯なんか使えないかな?)


 まさかこんなところで拓海の知恵が必要になるなんて思いもしていなかったぞ。

 もっと拓海にラノベとかの話を聞いておけばよかった!


 「ていうかデケェ⋯⋯3mはあるんじゃねぇか?」


 (流石に死骸は無理だろうけど、爪とかならダガーとかで剥ぎ取ればいけそうか?)


 試しにダガーを取り出して爪だけを剥ぎ取り、マジックバックの中へ1本放り込んでみる。


 「上手く行った」


 (となれば、急げだ)


 白狼はそこからやれるだけの剥ぎ取りを行い、どこまで入るかを検証した。


 「爪は大体10本いけたか。案外容量キツキツとか言う割にはサービスしてくれてんじゃん」


 (そんで後は、どこの穴に入るべきかって話なんだが⋯⋯)


 この見た感じ普通に気持ち悪くなりそうな穴の量にドン引きなんだが、今はそうこう言ってられん。


 左右にそれぞれ大きな一本道の中間に白狼と巨人ゴブリンは落ちており、その周りの円型に穴が広がっているという状態。


 考えた末、白狼は大きな道の左右どちらかに進むことを決める。


 「絶対この穴の量は、卵とか厄介そうなのしかないよな⋯⋯ここは大きな道に賭けるしかない」


 白狼は昔裏社会の人から教わった足跡の確認方法を取って蟻の小さい痕跡が右に行っているのを確認する。


 (自分の直感は右。だけど、土の痕跡的には右の方に蟻が向かったはず)


 ⋯⋯クソほど迷う!どうすりゃいい!?


 散々な目に遭い続けた白狼ですら、こんなに悩むことは中々無かった。


 ガシガシ髪を掻き続け約30秒程。白狼は決断する。


 「右に行くぞ」



 ──完全な自殺宣言である。



 先程自ら痕跡はこっちに行ったと判別したにもかかわらず、何故か自分の直感力を信じ、右側を選択する白狼。


 「こういう時、悪い予感が頭に浮かぶ時はもれなく当たってしまうが、悪い予感が何故かしないときは大体そっちも当たる」


 とりあえず一応自分の身代わりとなった蟻と奮闘した巨人コブリンに黙祷を捧げ、白狼は自ら選択した右側の大きな穴道へと進んだ。

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