運命のダンジョン突入
⋯⋯あっという間の日々だった。
「白狼くん、みんな待ってるよー!」
「あぁ、今行く拓海!」
召喚されてもう一ヶ月ちょっと。
今日は初となるダンジョン攻略をメインとした実践訓練が始まる日だ。
いやぁ、この一ヶ月はかなり有意義だったと思う。図書館通いのおかげでこの世界の情報と情勢を少し得られたのは結構でかい。
まず始めに、この世界の名前は《アルトネ》と言うらしい。歴史はかなりあるようで、正確なのは『魔法暦3500年』というキリのいい数字。
召喚されたのがこの"3500"という丁度のところとか拓海の言うラノベ的な展開ではよくあるのだろうか。今になって目を通していないことにかなりの後悔が残っている。
とはいえ、時代はほとんど拓海の言った通り中世風の科学ではなく魔法が発達した世界のようだ。
一ヶ月でやった事は大したことじゃない。
座学なんて大雑把⋯⋯というか、ほとんどの奴が礼儀作法、口調等が駄目なのが原因だった。
⋯⋯俺もな。
逆に言うと勉学の方は地球の方が圧倒的に進んでいて、座学の先生が舌を巻いていた程だ。もはや授業ではなく、先生が生徒から学ぶ状態になっていた。
残りはほとんどが基礎訓練。
時間にしておよそ10時間近くが筋トレや体力トレーニングに近い動きばかりしていた。伸びの良いやつは木剣を使ったトレーニング、更に良いやつは木剣を使った軽い対人戦。
段階は細かく敷いていたが、大体は理解できた。
基礎練を行ったおかげで全員かなりの伸びを見せた。やっぱり異世界の力というのは凄いことを俺は学んだ。
⋯⋯やっぱりラノベとやらをしっかり読んだ方が良かったな。
っと、やべぇ遅れるな。
白狼は急いで荷物の準備を終えると、外に出て集合場所へと合流し、ダンジョンへと向かった。
・
・
・
到着した白狼達は早速降りて⋯⋯
「なぁ、佐藤大丈夫か?」
「だっ、だいじょ⋯⋯オエッ」
「バカバカ!ぶちまけんなって!」
彼は複数人で乗車していた中の一人、『佐藤隼人』。彼は可もなく不可もない至って普通の日本男児だが、降りた直後、馬車の揺れに耐えきれず吐いてしまったのだ。
そしてその先は──2人ずつ降りていた隣の白狼へとぶっかかった。
「ったく⋯⋯佐藤⋯⋯すみません!佐藤が酔って吐いてしまったので、面倒を見ます」
『おー!安久津殿、了解したっ!
⋯⋯と、いうよりも⋯⋯』
完全武装でいる壮年の風貌の兵士⋯⋯イオットは白狼の背後にいる他の乗車連中に目が向いている。
「ん?」
イオットの視線を追うように白狼も背後を振り向くと、佐藤と同じように拓海やもう一人の乗車クラスメイト、永井も同様に顔色が悪い。
「拓海、何仲良く肩組んで今にも吐きそうになってんだ?」
「ごっ、ごめん白狼くん⋯⋯もう⋯⋯げん──」
その直後、予想通りのパーティーが始まり、白狼とイオットの手厚い介護が始まった。
***
「安久津殿、これを」
「あ、ありがとうございます」
イオットが近くの水辺で絞ったタオルを白狼に手渡した。
あれから一時間。やっと三人の容態が落ち着き、イオットと白狼は木の根本で軽い休憩を挟んでいた。
「いやはや、まさか異世界の方々がここまで耐性がないとは⋯⋯」
「ははは、色々技術で揺れないような作りだったり交通手段が違ったりしたので、そのせいだと⋯⋯ははは」
「そうか。確か話によるとカガクというものが進んでいると聞いたな」
「ええ。魔法はお伽噺の存在に近いものでしたから」
「私達は生まれた時から存在していたからな⋯⋯そう言われても信じられんなぁ」
イオットの年齢は36。
この騎士団のナンバー2の立ち位置だ。
年功序列というのを予想していたが、割とそんな事はなく、むしろ弱い方が問題だと言うことで若くて経験豊富な者が上役になるようだ。
「一つ質問しても?」
「勿論、我々が個人的にスカウトをしたいのは安久津殿だからな!がっははは!」
「えっ?そうなんですか?」
白狼がそう言うと、イオットはニヤリと笑い、
「勇者安久津⋯⋯戦い慣れているな?」
「まぁ他の勇者と比べるとという話ならまず間違いなくはいでしょうね」
「やはりな。一人だけ基礎練習の必要が全く必要ないレベルで仕上がっていた。歩き方から体の使い方、正直私達ですら理解できない程だった。地球という星では誰かに師事していたのか?」
イオットにそう言われたとき、白狼の頭の中には声が流れていた。
──いつか必要なる。これくらい出来ていれば、将来暴力がメインの時代になっても生き残れるだろう。
(お兄ちゃん⋯⋯アンタが今生きていたら、俺は泣いて会いに行くさ。貴方の教えは、異世界の人を驚かせています)
「ええ、師事というよりは、家族とした扱ってくれた親が一人だけいます」
「特殊な生まれなのだな」
「はい」
「質問があると言っていたな?今度は安久津殿の番だな」
「確か今回の実践訓練にて、大事な話をすると仰っていましたが、具体的な話を聞かせてもらう事はできますか? 言い方的にかなり重要だと思いましたが」
「あぁ。確かにな、安久津殿ならばいいか」
落ちている葉を手にとって、イオットは話し出す。
「召喚は初ではないという事実をまず伝えなければならない」
「⋯⋯なるほど」
「その傾向からあえて箝口令を敷いていたのだが、実践訓練では嫌というほど感じてしまうからな。そこで言うことにしている。長ったらしいはアレだからな⋯⋯ようするに、レベルの話だ」
イオットの言葉に目を開く白狼。
「レベルがあったんですか?」
「⋯⋯あぁ。レベルが上がると、身体の感覚に変化が起こるから誰でもわかるはずだ。魔物や人を倒してもレベルが上がってしまう」
「なるほど」
「仮にその情報を伝えてしまうと、今までの勇者殿たちは数字に固執する様子が伺えてな。スキルの方が大事なのに⋯⋯いや、これは今話すことではないな」
(なるほど。良い判断だ)
もし最初に言っていたら、今頃みんな思考がかなり偏っていただろうな。
「ありがとうございます。発言があるまでは胸の中にしまっておきます」
「それは助かる。やはりこうして話すと、安久津殿はスキルがないのではなく、必要ではないと判断したのかもしれないな、
「そうですか?スキルが大事なのだとしたら与えた方が目的を達成できると思うんですがね」
「神の判断はいつも理解の及ばぬところで働くという。考えても仕方ないのだが、もしかしたら安久津殿には何かしらの力があるのではないか?というのが私の結論だ」
「⋯⋯だといいんですが」
苦笑いで白狼が相槌を返す。
『白狼くんー!』
『イオットさーん!』
「おっと、それでは行くとしようか」
「⋯⋯ええ」
***
『これより!実践訓練を始める!』
この騎士団の筆頭であるマクレンが開始の言葉を告げている最中。
一番後ろで聞いていた二人は小声で会話をしていた。
「(白狼くん、イオットさんと何を話していたの?)」
「(色々だよ。お互いの昔話とか、これからの話とか)」
「(そっか)」
その後先程話していたレベルの話、王族も使用すると言われている昔からある王家所有のダンジョンであること、とはいえ中にいる魔物は本物であること。
全ての説明を10分ほど掛けて丁寧に解説した後、全員で入っていく事に。
「(全員で行く意味あるのか?奥に行くわけじゃないんだろ?)」
「(いや白狼くん、多分白狼くん以外は気付いていることなんだけど、いくら基礎がある程度終えたとしても、まだ5人単位でも油断出来ない状態だと思うよ?)」
「(マジか?)」
「(⋯⋯いや、白狼くんももう少し周りに興味を持とうよ)」
苦笑いの拓海。
白狼も「確かに」と返すしかなかった。
「(幸い白狼くんと同じ列だから大きく困ることはないだろうけど、ちょっと大変そう)」
「(なんでだ?)」
白狼の疑問に拓海は説明しているマクレンの隣にある陣形の紙を指差す。
「(能力的に、僕が早熟なのを見越して一番最前列。白狼くんは訓練時に見せた動き等の評価で最前列。僕達は協力できるからいいけど⋯⋯)」
近くにいる高嶋たちをチラッと見る拓海。
「(彼らも最前列だからちょっと嫌な予感がしなくもないっていうか)」
不安そうな拓海の言葉に白狼も全面同意だった。
(ああいうのはどこ行っても馬鹿なことしか起こさない天才だからある意味)
注意深くいないといけないのは勿論だが、スキルもねぇ俺が一番最前列はまずいんじゃないのか?
確か<火魔法>とか使えるやついたろ?
『それでは、これより第一回ダンジョン探索を始める!⋯⋯⋯⋯突入、開始!!!』
マクレンの力強い通る一声で、勇者たちのボルテージは最高潮。白狼たち勇者一行は、そのまま見えるダンジョンに入っていった。
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