鑑定

 「─────では、これより一人ずつ前へ出てきてもらう」


 それから一時間程だった現在。

 話を聞いた白狼は腕を組みながら必死に思考を高速で回していた。


 つまり⋯⋯拓海の言う通り異世界とやらに連れてこられたのは間違いなくて、召喚したのはあの高い場所で玉座に座るあのおっさん⋯⋯名前忘れちゃった。


 要約するとあのおっさん率いる国に召喚されたと。目的は一つ──魔王が誕生するという予言の元、勇者を召喚すると言うものだった。


 正直予言だの神だの言われた時は、日本育ちの俺は頭が痛かったが、事実異世界にいるのだから納得するしかないだろう。

 ⋯⋯この問題は一旦解決。


 次にこの世界について。


 この世界には『魔法』という子供の時には一度は聞いたアニメのような力が主軸で使われているらしい。


 疑問だった俺は近くにいた兵の人に聞いてみたが、すぐに掌の上に水やら火がボウッと現れたのを見た時は腰が抜けそうになった。


 ──この世界は危険だと。


 一気に認識が変わったのを感じた。 

 魔法なら、火を飛ばしたり、雷を発生させたりすることもできる。


 ⋯⋯そんな奴に素手で勝てる訳がない。

 

 仕方ないが、ダルいとは思いながら話を聞き続けた。


 その長話を要約すると、一先ずの流れはこれから一ヶ月ほど近くの寮に住み、修行の後、『ダンジョン』というこの世界特有の場所で主な修行を行う事になるそうだ。


 それまではこの世界の騎士達に基礎を習い、本人にあった方向性の戦い方を見つけていくという。


 まぁ話は理解できたが。


 「(それで拓海、あれは何をしてんだ?)」

 

 「(白狼くんは知らないよね。あれは『鑑定水晶』って言って、僕達異世界人が持っている<スキル>を確かめる為に手を翳す事でわかるアイテムなんだ)」


 「(大丈夫なのか?スキルは大事なものだろう?あんな簡単に手の内バラすような事しちゃって)」


 「(それはそうだけど、こちらにその人権はなさそうだしね⋯⋯)」


 白狼は周りの兵士たちや騎士たちの態度から拓海の言動に納得するように頷く。


 (なんじゃこれ。ガチャポンでもあるまいし)


 これでいいものが出なかったら終わりじゃねぇかよ。


 白狼は思いつく限りの悪態をつきながら一人一人行われる鑑定の儀というものを眺めていた。


 途中、聞いたことない単語ばかり聞こえて頭が若干痛いが、そんなこんなで拓海の番が回ってきた。


 『次、勇者新田拓海!』


 「おっ、行ってこいよ」


 「うんっ!」


 階段を上がった先にいる聖職者みたいな服装をしている壮年の男の元へ着いた拓海が、案内通りに水晶に手をかざした。


 強烈な白い光が周囲に輝き、白狼を含めた全員がその輝きを手で隠した。


 『こっ、これは⋯⋯!』


 「え?もしかして変なスキルでしたか?」


  瞳をうるうるさせた子犬のような拓海が聖職者に尋ねると、次の瞬間。


 『陛下!勇者拓海殿は<勇者の加護>、並びに<剣術の極み>,<言語理解>までのスキルを獲得しています!』


 壮年聖職者の男がそう言うと数秒の静寂⋯⋯陛下は立ち上がってうるさい程の拍手を鳴らした。


 陛下に釣られてクラスメイトたちの全員も拍手を鳴らし、ただ白狼一人⋯⋯意味が分からずにその状況を眺めていた。


 「いやぁ良かったよ!」


 「ところで勇者の加護って?」


 「そこの所はまた要検証しなきゃだけど、とりあえずチート級に強いものゲット!」


 (なら良かった、チート級って事はズルいレベルで強いって事だ⋯⋯拓海もようやく輝ける場所を見つけたってことか)


 「ふっ、良かったじゃん。頑張れよ勇者様」


 拓海の胸に拳を軽くポンッと当て、白狼は残りが自分だけなの察して聖職者が待つ場所まで向かう。


 「これに触れればいいんですよね?」


 『そうです。触れずとも翳すだけで十分でございます』


 白狼は緊張の一つも見せずに水晶へと手を翳す。


 『あ、あれ⋯⋯?』


 数秒後、壮年聖職者の男は慌て始め、白狼も何がなんだかわからずにその様子を眺め続ける。


 「どうしたんです?」


 『い、いや、通常はスキルを貰えますし、水晶は必ず光る筈なんですが、どうやら光らず困っていまして』


 聖職者の言葉にクラスメイトの馬鹿にするような声と「ぷぷぷ」という嘲笑が僅かに聞こえる。


 (不具合でもなさそうだ。俺はスキル無しって事か?)

 

 『陛下、この場合は⋯⋯』

 

 『不具合ということも十分考えられる。安久津殿の鑑定はまたの機会にしよう』


 (人のガチャポンでなんで、あんな上から物が言えるんだか)


 白狼は黙って拓海の隣へと座った。

 

 「(ねぇねぇ白狼くん)」

 

 「(⋯⋯ん?どうした?)」


 「(光らなくて、しかもスキルも何もない場合は、もしかしたらお約束のアレかもしれないよ)」


 「(お約束?)」


 「(選ばれた人しかもらえない特別な更にチートみたいなスキルが後々得られるかもしれないってこと!ラノベではそういう主人公が沢山いるんだ!)」


 「(へぇ⋯⋯でもこれ、ノンフィクションだし、ただ俺の才能がないパターンの方が可能性高くない?)」


 「(そ、それは分からないよ?)」


 「(励ましてくれてありがとよ)」


 白狼がそう言って拓海の肩を一回叩くと、拓海が嬉しそうに、


 「(地球あ、あっちでは、いつも白狼くんが守ってくれたんだから、コッチ異世界では、僕が白狼くんを護る番だ!何かあったらすぐに言ってね!)」


 まだ力を得たばかりの拓海は、半分ドヤ顔で白狼にそう言うのだった。


 (ふっ、拓海も性格がイイやつだ)


 「(おう、無能な俺を助けてくれよ)」


 白狼がそう言って左拳を真横にいる拓海に突き出し、合わせて拓海も拳を合わせた。

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