光
「だぁっ⋯⋯!なんとか間に合った」
「白狼くん速すぎだよ! 死ぬかと思ったんだけど!」
猛ダッシュの末、なんとかギリギリ閉まる前に到着出来た白狼と拓海。
二人は荒れ狂う心臓の鼓動と引き換えに手すりに掴まって深呼吸をしているところだ。
「危ねぇ危ねぇ」
「まだドクドク止まらないんだけど」
「ほら、やっぱり運動はしてないけど、身体能力高いんじゃね?」
(確かに意外だ。必死だとはいえ結構ハイペースで走ったはずなのに、拓海はぎりぎり付いてこれていた。普段も色んな人間を見ているが、ここまで体力がある奴もいない──)
だが、そんな二人に悲報である。
「ごめん白狼くん、吐くかも」
「ええっ!? おい!我慢しろって!」
結局二人は次の駅で降りて急いでトイレへと向かった。
幸い、なんとか朝食をぶちまけるという地獄絵図にはならずに済んだ。
だがしかし──ギリギリの時刻で行こうとしていた二人だ⋯⋯間違いなく遅刻は確定したようなものだ。
二人は調子が悪そうに駅のホームにあるベンチでダランと上を見ながら休む。
「ごっ、ごめん⋯⋯」
「謝んなよ。朝食が多かっただけだ」
(なんのカバーにもなってねぇや)
「ちょっと休んで、学校で怒鳴られよう」
「ありがとう⋯⋯! 白狼くん!」
顔の前まで近付けて感謝を伝える拓海だが、近すぎてドンドン白狼の表情が青ざめていく。
「バカバカ、まだ口からゲロのニオイが⋯⋯」
──お互いにオエオエして最悪の状況から脱出。
まだしばらく無理だと判断した二人は、結局高校の最寄り駅まで行くと降りてすぐ近くにあるコンビニで飲み物を買って、通っている学生たちならば誰もが知っているサボり公園に向かう。
到着するとすぐに見える背もたれが付いている椅子に座る二人。
「あぁーうめぇ」
綺麗な喉越しと共に、二人は500のペットボトルをすぐに空にする。
「一年ってあっという間だね」
「まぁ⋯⋯そうだな」
突然空を見上げて言う拓海の言葉に白狼も同じように見上げて言葉を返した。
「高校2年生か⋯⋯白狼くん、受験はどうするの?」
「んーまぁまだ決めてないかな⋯⋯」
(将来何になりたいんだろうなぁ、俺は)
とりあえず貯金は結構出来たし、普通の大学生になって、資格でも取ってのんびりとかか?
「そうなんだ」
「拓海は? 確か弁護士だったっけ?」
「うん、正直嫌なんだけどね」
「やらなければいいだけじゃないのか?」
「はは、まぁそうなれればいいんだけど⋯⋯親がうるさくてさ」
(俺は施設育ちだから、あまりそう言うのは無かったなぁ)
「そういうもんか」
「うん、白狼くんは?」
「親はいない。小さい時に捨てられて、施設に引き取られた」
拓海がしまったと慌てて何回も謝っているが、対して白狼は関係なさそうに話を続ける。
「まぁ、幸いその施設のオーナーっていうの?親元の人がすげぇ人らしくてさ」
「へぇ⋯⋯凄いっていうのは、どんな事で?」
「なんか、当時まだ14歳とかで施設を10個以上経営していて、食事とか施設の機能も凄い良かった。メニューだってそこいらの外食レベルで良かったし、そのオーナーも結構な頻度で遊びに来てた」
「僕の周りに一人だけに白狼くんと似た境遇の子がいたんだけど、そこは結構酷かったみたい。白狼くんは大当たりを引いたんだね」
「多分大当たりどころじゃなかったと思う」
「どういう事?」
「宝くじ当たったくらい凄いことだったと今思えば思うよ」
「⋯⋯そんなに?」
「あぁ。俺が引き取られたのはあの時で6歳とかそんくらいだったけど、入った初日の事は今でも鮮明に覚えてる。
まるで西洋の城みたいな場所に、1面美しい花園が広がってて、門を潜ったらその景色を一望できるんだ。そんでもう一個の門を潜ると、城の入り口があって、その中には楽園があったんだよ」
「聞いてるだけで凄い所だね。確かに大当たりどころじゃないね」
「そこには食べ放題のビュッフェがあったし、カラオケもあって、ボウリングとかビリヤードみたいな娯楽も沢山あったし、お菓子も沢山あった。引き取られてからしばらくその生活だったから、正直外に初めて出た時、大したことないじゃんとまで思ってたよ」
「確かに。聞いてるだけでそう思えてくる」
「なんだけど、オーナーが金だけを残して突然失踪⋯⋯したんだよね。多分あれは、何か事情があったんだと思うんだけど」
「突然失踪なんて」
「ま、それが大体中2くらい。そっからは色々あって⋯⋯まぁ地下格闘技に出されたり、ヤクザとの抗争連れられたり⋯⋯まじで色々あった」
「漫画みたいな人生送ってたんだね、白狼くんは」
「⋯⋯本当な」
(プッと思わず自分でも笑ってしまうくらい波乱万丈な人生歩んでると思う)
漫画のシナリオとかで話してみたら、案外いい線行くかもな。
(そのお陰あってか、今は貯金もかなり貯まって、数年プータローやれるくらいにはなったかな)
「こんな俺みたいなやつでも、なんとか生きていけんだから⋯⋯まぁ人生ってのは色々あるもんだ」
「僕は早く家を出たいんだ」
「家? ⋯⋯は親が嫌だって話か?」
無言で頷く拓海。
「毒親みたいな所もあるから、なんとも言えんけど、度が超えてるならどうにか対処しないとな」
「⋯⋯だから、凄く今助かってるんだ!」
拓海が心底嬉しそうに白狼を見つめる。
「何が?」
「家に帰るんじゃなくて、白狼くんのお家にお邪魔できたりしてるから、ストレスがかなり分散されて、助かってる」
(⋯⋯相当だなこりゃ)
どんな生活してたら親が嫌で少しの時間外に出るような事になるんだか。
「機会があれば俺も遊びに行くよ」
「⋯⋯本当!? いつでも待ってるよ!」
・
・
・
その後も調子が治るまで話して一時間ないくらいで、二人はなんとか急いで学校に到着した。
遠目からでもくっきりと分かる門の前で待っているガタイの良い体育教師に事情を説明し、職員室へ。
その後10分ほど叱られたが、別に痛くない。人助けをしていたと思えば、特にダメージは無いからだ。
「それから安久津」
「⋯⋯はい?」
「お前、その髪はどうにかならんのか? さすがに不潔だ」
「昔色々あって、顔を見せたくないんですよ」
「はぁ⋯⋯全くこれだから社会にも出たことのない奴は、いいか?」
深い溜息と共に、教師からの説教が始まった。
(あー、また始まったぞ)
いらんことを言ってしまった自分に反省して、追加で数分が消化される。
職員室を出ると、拓海が怒られながらも待っていてくれたようだった。
拓海は白狼をみつけると怒られているのにもかかわらずに教師の静止を振り切り──手を振って白狼の元へ駆け寄っていく。
「終わった?」
「拓海⋯⋯意外とメンタル強いのな」
(今キレられている真っ最中だってのに、拓海ときたら全く見向きもしねぇじゃん。いじめられている時もその感じでいれば平気だったんじゃねぇの?)
頭の中でそうよぎる白狼だが、それはそれと割り切った。
そして気付けば、拓海は再度怒られている。
──そんでなぜか、白狼も一緒に怒られたのはすれ違う教師も笑っていた理不尽さだった。
***
何度目かの追加説教終わってすぐ、二人は掲示板に貼られたクラス分けの紙を眺めていた。
「僕は⋯⋯あっ、3組!」
(俺は⋯⋯3組だな)
「白狼くんは?」
「俺も三組だ。1年間よろしく」
「やった!1年間よろしくね!」
(さて、教室へと行きますかね。どうせいいことなんてないんだろうけど)
階段を登ってそのまま三組に続く廊下を進む。
ガラッと劣化している教室の扉を開けて中に入る。
白狼はそのまま先生に事情を説明し、空いている一番後ろの席⋯⋯はなかった。真ん中らへんの先に座ろうと目を向けた──その時だった。
「⋯⋯ん?」
天井が恐ろしい程光り輝いてとても目を開けていられない程だった。
今までの経験だからか、死の危険に陥る回数が多かった白狼は、それが起こったのとほぼ同時に両目を閉じて、流れるように両手で首を守りながら頭を覆ってしゃがんでいた。
目を閉じながらも、同じく現場にいた拓海に白狼は声を張り上げて叫んだ。
「拓海! 防災訓練みたいに頭を手で守れ!」
「うんっ!」
目を背けていても、ずっと光っているのが分かる。それほど明るさは高く、気付けば数分はその体勢のまま。
(終わったか?)
若干目を閉じながらも感じる明るさの量が減った気がした白狼は薄っすら片目だけ開けると、謎の力なんなのか⋯⋯開くと同時に意識が強制的に落とされた。
「たっ⋯⋯くみ」
落ちる直前、白狼は必死に近くにいる拓海に手を伸ばしながら倒れるのだった。
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