白雪姫②

「ねえ、おばさん。ひとつだけ、わたしのお願い聞いてくれる?」



scene:木漏れ日の隙間から


お妃様からの差し入れのりんごを食べ、倒れてしまった白雪姫。

心配になったお妃様は、小人がいなくなった隙に、棺に入れられた白雪のことを見に行く。



色とりどりの花が添えられた棺の中で、安らかに眠っている白雪。

その様子は、本当に死んでしまっているかのように見えた。

「白雪!」

お妃様、涙目で白雪に抱きつく。

「白雪、ごめんなさい、どうして、嫌よ、死なないで、白雪!」

白雪に縋り付いたまま、子供みたいに泣きじゃくるお妃様。

しばらくずっと泣いている。もはや何を言っているのかもよく聞き取れない。

そんななかで、突然に聞こえてきた笑い声。(堪えきれずに吹き出しちゃって、その後はずっとくすくすくす…って感じの)

お妃様、予想外の出来事に硬直。

「もう、そんなに泣かないでよ、おばさん。これだと、どっちが子供なのか分からないよ?」

笑い混じりの白雪の声。

「白雪!!?!?」

白雪って気づいて硬直が溶けたお妃様、がばぁって体をあげる。

続いてゆっくりと体を起こす白雪。

「そうだよ」

にこ、って笑う。

「なんで……??」「だってあなたは、死んだはずじゃ…」

涙が顔に貼り付いてるお妃様。

「普通のリンゴを食べただけなのに、本当に死んじゃうわけないでしょ?」

「それは、確かに、そう…だけど」「じゃあ、なんで、こんなこと……」

白雪、ちょっとツンッてした顔になる。

「もう。おばさん、さっきから質問ばっかり。わたしが全部をちゃんと説明しないと何も分からないの?」

むすってした白雪と、きょとんってしたお妃様。

白雪のため息。

「言わなくたってわかってよ。そんなのさ、決まってるじゃん」

「おばさんと、一緒に居たいからだよ」

お妃様、変な声出る。それを聞いて、白雪はまた笑う。「変な声!」

相変わらず何もわかっていないお妃様を放って、棺の中に倒れこむようにして笑い続ける。

小人達の添えた花が宙を舞う。それらはひらひらと、重力に従いながら落ちていった。

「ね、おばさん」

お妃様の位置からは、白雪の顔はよく見えない。

「わたしと、逃げよう?」

「へ、?」

「わたしさ、本当はね、」

木漏れ日の隙間から、澄み渡る青い空を眺めて白雪は言う。

「結婚とか、王宮とか、そういうの全部、どうでも良いんだ」

お妃様、白雪の言葉の意味がよくわかっていない。頭の中で白雪の言葉を噛み砕いている。

「わたしはただ、おばさんと一緒に居られれば、それでいいんだよ」

世界から音が消えた。小鳥の囀り、木々の揺らぐ音、遠くで虫(蝉?)の鳴く声。

そんなものが全部消えて、ただ白雪の声だけが、鮮明に聞こえる。

「お願い」

バサバサバサッと、白雪の視界の上を、黄色い羽根をした子鳥が通り過ぎる。

それを目で追う様に、ゆっくりと白雪は起き上がる。

鳥はお妃様の頭を通って、木々の間を逃げるように飛び去っていく。

変わらずアホみたいな顔をしているお妃様と白雪は目を合わせる。

「おばさん」

お妃様の体ががビクっ、てなる。

「おばさんは、嫌?わたしと一緒に暮らすの」

「そんなこと」「そんなこと、ないわ」

お妃様、やっと白雪の言葉を飲み込めた感じ。言いながら顔が動いて、少し穏やかな表情を作る。

白雪はそれを見てにこっ、てする

「私も、あなたと一緒にいたい」

そう言って、お妃様も笑い返す。多分、これまでの中でいちばんの笑顔。

白雪、お妃様の襟元を優しく掴んで、自分のそばに引き寄せる。

(白雪の顔が近くて多分お妃様は脳内で限界オタクを発揮している)

お妃様、顔が赤い。声が出てこない。

「ねえ、おばさん。約束だよ?」

(もしお妃様目線になる場合は、白雪の吐息が伝わってきそう…みたいな話をする)

お妃様、ふぇ、みたいななっさけない声が出てしまう。

お妃様、脳の限界なんてとっくの昔に超えている。

約束の契りはそう、甘い甘いkiss…

「ね、おばさん。これでもう逃げられないね」

いたずらっ子の笑顔でニッって白雪が笑う。

この辺りでやっと、全てが白雪の手の上なんだと気付いたお妃様。全てを理解する。

顔が真っ赤になっちゃう。多分羞恥と推しとの急な触れ合い(オブラート表現)で。

「白雪〜〜〜!!!!!」

「あはははっ!おばさんってやっぱり面白い!」


木漏れ日の隙間から届く穏やかに包まれて、2人の少女はしばらくそこで笑い合っていた……的な

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る