第2話(お香)

 江戸時代えどじだい

 おこうはとても貧しい農民の一家に生まれた。

 姉達は意地悪で、両親は暴力を振るってくる。

 今まで生きてこれたのが奇跡だ。

 今年は不作。

 おそらく、自分は今年こそ死ぬ、とお香は思い込んでいた。

 しかし。

 数日前、お香に食べ物を恵んでくれる男の子が居た。

 優しい祖父に話をすると、それは柴樹しばき家の嫡男、忠政ただまさ様だと分かった。

(忠政様、かっこよかった…でも、少し疲れて、急いでる感じがしたなぁ…)

「香!手伝え!」

 お香の父、次郎がこう言った後、思いっきりお香の腹を殴った。

 血がポタポタと落ちる。

「あなた、やり過ぎよ!」

 いつもお香に冷たい母でさえ、お香を庇う。

 しかし、次郎はもう一発殴った。

 そして、殴って殺した武士の遺品である刀をお香に突きつけた。

「次は、殺すからな」

「…は……………い……」

 最早、農作業どころか動くのも難しい。

「ちょっと、お家汚さないで!この古い家、ただでさえ虫出るのにさー」

 大袈裟に姉達が怒るので、お香はもう生きていても無駄だと感じた。

 そして、殴られた痛みに必死に耐えながら、逃げた。

(もういっそのこと…もういっそのこと…!)

 川に飛び込もうとした。が、馬にぶつかりできなかった。

(高貴な方の馬…)

乗っている側は、とっくに意識がなかったようだ。

(柴樹忠政様…?)

祖父曰く、同い年らしい。

「あの、大丈夫ですか?」

声をかけてみた。すると、薄ら目が開いた。

「うん…あれ…?君は…この前の…」

覚えてくれていたようだ。

「はい、そうです。ところで、何かあったのですか?」

「ちょっと…妻のおゆうがめんどくさくて。逃げてきたんだ。ところで、名前は?」

「香です」

「香か…私の名前は柴樹忠政だ。香、腹のところ、大丈夫?」

「あ、いえ…父に殴られて…」

「そうか…」

そう呟いた忠政は、お香の腹に包帯を巻いてあげた。

「突然だけど…」

忠政は何故か赤面している。

「私の側室になってくれぬか?」

「…え?」

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