大名と農民

額田兼続

第1話(幸松)

江戸時代えどじだい

Kはんの大名であった柴樹氏しばきしの8代目当主、柴樹歳忠しばきとしただとK藩の武士の娘、おひろとの間に嫡男ちゃくなんであり長男である男児が生まれた。

名前(幼名)は幸松さちまつ

そして、さっそく許嫁いいなずけが決まった。

近くの藩であるT藩の大名、大石家おおいしけの娘、おゆうだ。お由は幸松より7歳も年上だ。


幸松が数え年5歳(満年齢は3歳)になった正月。

お由と会うことになった。

大石家と柴樹家の権力の差はほぼないが、数え年12歳(満年齢10)であるお由と会うのは初めてだ。それに、幸松の姉達はお由に数年前に会っていたけれど、幸松が生まれてから一度も会っていないらしい。

「姉上。おゆう様はどんなお方ですか?」

「お由は少し意地悪だわ。気の弱い幸は振り回されてしまうかもね」

姉であるおせきがからかう様に言う。

「からかうのはやめてください、姉上。私だってもう5歳ですよ」

「そうならない様、若は頑張ってください」

家臣である竹内信綱たけうちのぶつなが言う。

「分かった、のぶつな。さちまつは頑張ります」


およそ30分後。ようやく大石家の城についた。

「あそこにお由はいるみたいよ」

許嫁とはいえ、初対面。幸松は少しドキドキしてしまった。


「久しぶりですな、大石殿」

「7年ぶりですな。ん?その男児は誰じゃ?」

「お由様の許嫁、幸松でございます」

「幸松か…。由は乱暴だからな。まあ、由に振り回されぬよう頑張るんじゃ」

「は、はい…」


「その子が幸松?」

お由が言った。

「そうでございます」

大石家家臣、水代茂直みずしろしげなおが言う。

「もうちょっと私と年の近い子が良かったわ」

「それは由信よりのぶ様の決められたことですので、仕方がありません」

由信とは、お由の父である。

「父上様、何で私にしたのかしら?姉上様はもう19なのに今だに嫁いでないし、末っ子のれいなら年も釣りあったし」

「おそらく父上様は………………………………………」

「…ふーん。なるほどねぇ…」


その2年後、幸松は元服した。

幸松は、柴樹忠政しばきただまさと名乗ることになった。

そして、結婚することになった。

「幸松改め忠政です。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

前と違って、優しくなったかと思った。

なってなかった。

例えば、酒を飲んでいる時。


「忠政。酒を一杯持ってきてくれぬか?」

「いえ、その…もう酒はよした方が…」

「私の体のことは私が決めるから。いいから持ってきて」

「あ、は、はい…」

ちなみに、お由は全く酔っていない。


「忠政、大辺正明おおべまさあきの処罰は死刑でいいわよね?」

「あの…その罪は、流刑なはず…」

「あっそ。でもそれって、幕府が決めたの?違うわよね。私が決めたのよね。私が決めたから、私が自由に変えられる。間違ってる?」

「…………」

年上で気の強いお由に、忠政は全く逆らえなかった。


そして、お由に振り回された忠政は、ある日、お由が外出している間に逃げ出した。

(お由から離れたい…)

彼女の事を忠政は心から嫌っていた。

そこで、こっそり馬で逃げたのだ。

(あ…もう日が暮れてきた…)

もう、ここがK藩なのかさえも分からないくらい逃げた。

(少し、探索してみよう…)

辺りは田んぼや畑で、農民が働いていた。

しばらく歩いていると。

(あ…もう無理…)

疲れて倒れてしまった。

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