第2話 怨念


 

 

 夜空を埋め尽くす火の玉がゆらゆら揺らめいて、幻想的な「迎い火」と盆提灯が怪しげに揺らめく中こきりこ祭りが開催されている。


 そして…このこきりこ祭りの夜に、遥か昔に無念の死を遂げた悲劇のヒーロ-源義経と、あれだけ貢献したにも拘らず弟義経を追い詰め、闇に葬った兄頼朝が再び黄泉がえるとは・・・・・

 

      🥀⛰️🌸

 

 美しい合掌集落五箇山を舞台に何が起ころうとしているのか?


 春には山桜や菜の花が山々や野原を覆い、その合間を民話さながらの合掌集落がぽつりぽつりと姿を現す。

 

 夏には透き通るような空と緑の大地が、時代に取り残された合掌集落を近代日本から一層遠い存在として、美しい民話の世界を彷彿とさせさせる。


 秋には四方の野山は赤や黄色やオレンジ色の西陣織の帯を垂らした様に、煌びやかで豪華絢爛なる自然の大地となる。


 冬になるとその世界は一変して神秘の世界に様変わり。恒例のライトアップが施されて、一面キラキラ輝く青の世界がどこまでも広がり、合掌集落には銀の粉雪がしんしんと降り積もり、別世界に降り立った幻想世界となる。


 

     🔥🔥🔥

 

 こきりこ祭りだというのに辺りは火の玉が、あちらこちらに点在して飛び回っている。それだけ無念の死を遂げた人々の亡霊が彷徨っている事になる。

 

 *

 今から、かれこれ840年ほど昔にさかのぼる。

 義経が、兄頼朝から逃れ追い詰められて死の淵に立たされている。

 

「兄様は何故私がこれほどまでに、兄様を慕っていると言うのに……私の気持ちを汲んで下さらないのだ!嗚呼……はは様辛う御座います」


「本当にそうよのう……何故義経に辛く当たるのか?」


「はは様……何故……何故……?ウウウ(´;ω;`)ウゥゥワァ~~~ン😭ワァ~~~ン😭」



 その理由は諸説あるが、頼朝は義経に対して嫉妬というよりは、脅威だったとも言われている。


 義経は頼朝と同じ源氏の「嫡流(ちゃくりゅう):氏族の本家を継承する家系」で、戦は強く、朝廷と接近しており、京での評判が良かった義経は戦は終わったのだからとばかりに平家の女性を妻にして、更には厩司(うまやのつかさ)という朝廷の軍馬の管理者になっていた。この厩司というのは、平家の有力者が数代に渡って務めた職。仮に義経が無能で、都での人気も全然ない人間だったとしても、源氏の嫡流というだけでも頼朝には脅威だった。


 平家という敵がいる間は義経の天才的な軍事的才能は、頼朝にとって大きな武器になったが、平家が滅んだあとは逆に義経の存在が頼朝にとって脅威になった。



     🔥🔥🔥 


 それでは現世では親子だった父昭夫と息子悠人がタイムスリップして、かの有名な戦国武将源頼朝と源義経兄弟になってしまったのは何故なのか?


 そこには兄頼朝に対する弟義経の、あれだけの酷い仕打ちを受けても尚残る思慕と無念と積年の恨みが、今尚死して死にきれず火の玉となって浮遊していた。

「あんなに……あんなに……兄さまと……心通わせたくて……ウウウ(´;ω;`)ウゥゥ……褒めてもらいたくて……それなのに……それなのに……何故?ワァ~~ン😭ワァ~~ン😭」


 

 *


 悠人の父徹と母麻理は学校の先生同士で大恋愛の末結婚した。

 だが、母麻理が13歳も年下の教え子に惚れてしまった事によって家庭は崩壊してしまった。


 母麻理は高校の教師となっていた。そして悠人の義父昭夫は母麻理よりも、かなり年下の高校生で母麻理の教え子だった。義父昭夫と息子悠人の年齢差は12歳差である。頼朝と義経の年齢差も12歳。こんな事も有り義経の怨念が乗り移ったのかも知れない。


 母麻理が42歳で義父昭夫29歳そして悠人は17歳。


 それにしても……何故よりによって義経の怨念が時代を超えて、この親子に乗り移ったのか不思議な話だ。


      🔥🔥🔥 


「キサマ—————ッ!浮気をして若い男が出来たから離婚したいだと———ッ!俺は絶対離婚しないからな💢」


「私はあなたと、これ以上一緒にいるつもりは有りません。悠人も私と生活したいと申しますから連れて行きます」


「待て!待ってくれ!考え直してくれ……お願いだ!」


「もう決めた事です。さようなら」 


「何を————ッ!ゆゆ許せぬ!」

 そう言うと台所の出刃包丁を取り出し、先ずは妻麻理の心臓を一突きに、そして仲裁に入った悠人も一思いに心臓目掛けて突き刺した。そして車で待機していた義父となる昭夫が異変に気付き家に入ってきた。


 するとその時夫徹が昭夫を背後から滅多刺しにして殺害した。当然夫徹もこの世の終わりと悟り自死の道を選んだ。遠藤家は凄惨極まりない血の海となった。



     🔥🔥🔥


 逃れ逃れて辿り着いたとされる五箇山は、源平合戦倶利伽羅(くりから)峠の戦いで敗れた平家の残党が逃れた場所。義経が指揮を取っていたかも知れない戦いだ。


 義経は頼朝に追われ逃れ逃れた境遇を、平家の残党たちに重ね合わせ相通じるものが有ったのだろう。それとこの事件の首謀者元夫徹が1番好きな祭りが、こきりこ祭りだった事が災いして、こきりこ祭りが舞台となってしまった。


 また義父昭夫と息子悠人は12歳差だった事と、更に母麻理と悠人が母子関係という事も有り、死して尚死にきれなかった義経の魂が今尚火の玉となり浮遊して彷徨っている所に、憎しみと怨念の塊の夫徹が復讐の鬼と化して義経と合体した。


 愛する妻を奪い家庭を壊した義父昭夫に源頼朝の霊が取り憑き、妻麻理がもっとも愛する2人、頼朝となった義父昭夫が、義経となった息子悠人を追い詰め殺害するという最も残酷な幕切れとなった事で、徹の無念は果たされた。そして…現世では、自分のこの手で3人を殺害した事によって、二重に無念が晴らされた。

 

 一方の夫徹が、妻を奪った憎き昭夫を殺害した事によって源義経の無念は晴らされた。それは…兄源頼朝が昭夫に取り憑いて殺害されたからだ。


 

 義経はあれだけ兄を一心に想い、慕い尽くしたにも拘らず、余りの兄頼朝の仕打ちに、死して尚死にきれず火の玉となって彷徨い続けていた。


 一方の夫徹は死して尚死にきれず怨霊が取り憑いてしまった。その復讐に燃えた徹の目の前に標的がふっと現れた。それが義経の霊だった。

 

 こうして…怨霊と化した徹と義経の霊が合体した。

 

 源義経は死して尚無念の涙に暮れている。

「どうして……どうしてなのだ。心から……あに様を慕っていたのに……ウウウ(´;ω;`)ウゥゥワァ~」


 恨めしや~🔥恨めしや~🔥


 おわり

      

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悲劇の英雄義経……不死鳥黄泉がえり見聞録 tamaちゃん @maymy2622

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