28、結婚式に向けて
「キオウよ、私はどれほど貴殿に感謝をすれば良いのか分からん。シルヴィアがたくさんいれば何人でも嫁がせるものを……」
――えっ、待って? それって嫌がらせとかの類いじゃないよね? シルヴィア一人でもたいへんだよ? いや、愛する婚約者だけどね!?
キオウはスワン辺境伯領の屋敷に着いてから、執務室にシルヴィア共々呼ばれてゴドリックに頭を下げられた。
辺境伯ともあろう者に頭を下げられるのはいただけない。が、キオウはすでにそれほどのことをしてきたのである。
「わ、分かりました。頭を上げてください」
「もっと私が欲しいのですか? キオウは欲張りですね。でゅふふ」
「「………………」」
ゴドリックが残念そうな顔をするのを、キオウは見逃していないのだ。
ゴドリックは頭を上げると、「キリムを捕らえてから、芋づる式で第二部隊に所属していた奴の子飼いの者たちを追い出すことが出来た。むろんベイリー子爵家も連絡を寄越してきたが、すでにこの領では奴らの商会に頼らずとも良くなって来ている。それに……ふふ、奴らの商会自体力を落として、潰れるのもそお遠くないだろう。ククク……」
――うわぁ、お義父さん悪い顔してらぁ……。
「この領の状況も改善されてきて……まあ、他の貴族どもとの状況や帝国がまだまだ諦めていないなど、問題はまだまだあるのだが……、少なくとも領内の不穏分子を片付けることは順調に来ていると思う。だからこそ、キオウには感謝してもしきれんのだよ」
「ああ、私からも礼を言おう、ありがとう、キオウ」
「兄貴まで……」キオウは面映ゆい気持ちで謝意を受ける。「いや、でも俺は、シルヴィアと共に暮らすこの領が平和になればいいと思っただけで……」
「ふふっ、私のためですね。キオウは私のこと好きすぎでは?」
「悪いか」
「いいえ、悪くありません。でゅふふ」
ちょっと考えを改めようかな、と思わなくもなかったが、これが惚れた弱みと言う奴だ。
「キオウに頼ってばかりいてはいけないが、これからも領とシルヴィアを、シルヴィアをよろしく頼む」
今、危険だから二回言った? シルヴィアを、シルヴィア・スワンをよろしくお願いいたします!
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
キオウは、そう返しておくのであった。
◇◇◇
――いやぁー、真逆俺が結婚するなんて……。確か前世では……ウッ、頭が……。
それ以上はイケナイ事柄であったらしい。
だが、
――真逆ゴブリンになってから結婚できるなんて……。……ってか、そう考えると、こっちの俺ってまだ一歳くらいなんじゃあ……。そうか、シルヴィアの奴、一歳のゴブリンに手を出したのか。
妙にしっくり来てしまうのは気のせいか。
『いつかヤると思っていました』
と答えてやろう。ゲギャゲギャと。
「ってか、マジで結婚式なんだなー……」
帝国を退け、この領内の商業状況を改善した。その彼との結婚を止める者は誰もいない。いや、嘘を言った。それでもやはり口を出してくる貴族と言う者はいたわけで、シャンプーやリンスを売らないぞと言ってもまだごねていた。
――……まあ、お義父さん曰く、それくらいの敵対勢力だったら無視して、もしも何かやってきてもその時は徹底的に叩き潰せば良いって……すっげぇイイ貌してたもんなぁ。
その貌は、ちょっとシルヴィアがする貌に似ていた。
似ても似つかない厳ついおっさんであったのに。
――父娘だよな。
そう思うキオウは、今はシルヴィアとの結婚式の準備に追われていた。手伝いたかったが貴族同士の手紙の書き方など知る筈もなく、況してや関係性なども知っている筈がない。それらの根回し、折衝はシルヴィアたちに任せ――その姿を見て惚れ直した。残念痴女騎士とは思えない。が、それを言えば、
『ベッド行きますか?』
『言うんじゃなかったよ』
いつものシルヴィアだった。
その間はキオウは暇になってしまったものだったから、剣を振ったり(意味深じゃない)、騎士団員たちと剣を交えたり(君の解釈に任せよう)、魔法でモンスターを駆逐したり(介錯してやる!)、新商品を開発したりなど、領での商売を更に盤石なものとするために尽力した。
むろん、結婚式関連でキオウが必要な際はすぐに付き合った。
シルヴィアのドレスや装飾品を選ぶことに付き合って、帝国軍との戦闘よりも疲弊する目に遭った。シルヴィアも一般女子の多分に漏れず、買い物が長かった。だがそれを喜ぶべきか、どちらにせよただただ彼女に疲弊させられるキオウにしては難しいところだ。
尤も、
『更衣室は行為室……残念です、貴族では普通に部屋をあてがわれてしまいますので……』
『誰だっ! この女に余計な知識を教えたのはっ!』――だから俺、ナニを聞き出されてるんだよぉっ!
シルヴィアには一度常識のお勉強をさせ直した方が良いと思う。或いはあの洞窟に戻るべきか……。
ただ、そんなこんなの中で、
「キオウ、お母様が私たちの結婚式に来てくれるそうです! これもキオウの御陰で、お母様が王都で目を光らせるのにも余裕が出来たからです、ありがとうございます!」
「おう、シルヴィアが喜んでくれるのならば俺も嬉しいよ」
と若い夫婦が仲睦まじくしていれば、
「カロリンが、戻ってこられる……。いや、嬉しい。嬉しいのだが……、王都でああだったのだから家では……いやっ、王都で頑張ったのだから今回は……」
――お義父さんっ!
キオウは、そっと精力剤の在庫を増やしておくことに決めていた。
悲喜交々多々あれど、結婚式に向けた準備は順調に進んでいるのであった。
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