26、元ゴブリン、パーティーに行く
「ほぉ、あれが……」
「フン、亜人の若造が」
――……えぇ、仮にも国王陛下からの報償授与なんだから、もっとお行儀良くしようよぉ。これが王都の貴族かぁ……。
躾がなっていないにもほどがあった。間違いなく猿山の猿の方が大人しかったろう。
謁見の間にてキオウ、ゴドリックの面々が跪き、国王がやって来るのを待った。
「国王陛下の入場です」
国王陛下の、おなー
このゴブリン脳めっ! ……ちと違う?
笑ってはならない場面で何故か笑いが込み上げてくること、あると思います。頭の中に現れて来たゴブリンを退治していれば、
「面を上げよ。この度の帝国軍の撃退、ご苦労であった。そなたらに褒美を渡そう。ゴドリック・スワン――」
と、順に褒美が授けられていったのだが、
――え? あれ? 嘘、褒美、安すぎ……?
この世界にはまだまだ疎いキオウではあったが、それでも国を護ったにしては安すぎると思える報償であった。だからこそ列席した貴族達はひそひそと囁き合っては嘲笑うような笑みを浮かべる。
――マジかー……、サルヴァトール王国、マジかー……。
チラリと視線を向ければゴドリックは拳を固く握りしめている。こめかみの血管もぴくぴくと蠢いて、良くもそれだけの怒りを抑えられるものだと感心してしまう。
そのためにも奥様が抜いてくださっていたのだと信じたい。
キオウも報償を貰ったのだが、そう変わらない金額であった。
――終わってんな、サルヴァトール王国……。国王サマだってこの場なのに申し訳なさそうな目をしてるもん……うわぁ。
そうして、ちょいちょいとお褒めのお言葉をいただくだけで、報償授与は終わったのであった。
――うわぁ、この場合って、爵位がどうとか言われそうなものなのに、それもないんだー……、しかも帝国が攻めてきてたのにこの危機感のなさ。うわぁ、うわぁ、
この国は終わってます。
◇◇◇
パーティが始まればまだ何かしらあるのだと思えば、
「ほう、シルヴィア様の婿に。………平民が(ぼそっ)」
「お似合いですな。……野蛮な者同士(ぼそっ)」
――うっわぁあ……。
何というか、すげぇな、としか言いようがなかった。
隣を見れば澄ました顔でドレスアップしたシルヴィアがキオウの腕に手を添えていたが、目は氷のように冷たかった。美しいドレス姿ではじめて見たときは見蕩れてしまって再起動までに時間がかかったと言うのに、
『すげぇ、綺麗すぎる……』
思わずと言った様子で零してしまえば、シルヴィアの方も可愛らしく顔を真っ赤にさせていた。どれだけ威力が高かったかと言えば、
『ではこの姿でもします?』
と、いつもであったならば言っていた筈なのに、その返しがなかったのである。だからキオウの方から、
『服は汚さないようにするから、シルヴィアを汚させてくれよ』
『はぅううっ……』
とてもとても愉しかった。
まあ、その状態はそう長くは続かなかったのであったが。
そのドレスアップをして美しい彼女も気に食わないのか、令嬢達もひそひそと影口を叩いていた。ゴドリックと共にいるカロリンにもこめかみに青筋が浮きっぱなしである。
――あのママさんも結構強いみたいだな……。
そう他人事のように思っていたかったのだが、キオウにはこのパーティーにおける目的があったのである。それは、
「シルヴィアは最高の妻です。ははっ、まだ気ははやいですが」
そう言いながらシルヴィアの艶々とした髪を撫でてやるのである。
「普段から美しいのに、あれを使ってからますます美しいじゃないか?」
「はぅうううっ」
――いやいやそこは違うだろ? それなら髪コ●します? がシルヴィア……じゃなくって、このゴブリン脳め!
「何を使ったのか教えてくれないか?」
「それはキオウのザー「おぉおうっ! 俺が作ったシャンプーとリンスだよな、な?」」
――確かにそっちも使ったけれどそっちじゃないっ!
「はい、そうですね。キオウが私のために作ってくださったシャンプーとリンスで、私の髪もこの通り」
しゃらんらんら~♪
シルヴィアがここぞとばかりに髪留めを外して、波打つ金髪を手ぐしでなびかせれば、まるで天上のハープを鳴らすが如し。そのために髪留めをしてきたのである。
馬鹿にしていた筈の男性たちも見蕩れ、そして女性たちは、
『シルヴィア様、キオウ様! 詳しく!』
――おぉう、すっげぇ手の平返し……。
『まさか山猿がこれほどまで美しいとは……』
『山猿がこうならば私ならば……ぐふふ』
むしろ猿っぽいご婦人が言われております。
――やっぱり影口は聞こえるけれど、今はそう言う奴らに売らない、と言うよりは手の平を返させることが目的だからな。……シルヴィアはこんなに美しいのに。
キオウは、無意識でシルヴィアの金髪を優しく、愛おしい目で撫でていた。
「キ、キオウ……嬉しいですが、そう言うのは恥ずかしいです……。あっ、もっと撫でるなんて……うぅ」
時と場合によってはちゃあんと恥ずかしがってくれるらしい。
「ははっ、だって、思わず撫でたくなるような髪じゃないか」
「うぅ……」
と、イチャついていたのであったが、
『思わず、』
『撫でたくなるような髪……』
『――ゴクリ』
男女共に生唾を呑み込むのである。
そこにちょうど良く持ってきていたシャンプーとリンスを、貴族の奥様ご令嬢方に試供品として渡し、お買い求めはスワン辺境伯領の商会まで、と言うのである。ちなみに髪を洗って清潔に保つことで、抜け毛予防も……と言えば男性たちも食いついてきた。むろん、王家にも献上するのである。
「ふっ、勝ったな……」
と、その様子を眺めるゴドリックはほくそ笑んでいた。が、
「貴方、シルヴィアから聞いたのですが、あのどろりとしたシャンプーって、似ているものがあるらしいのです。そう、貴方から出るもので、……じゅるり」
「――え?」
娘は母に伝え、次の日、真っ白で干からびたようなお義父さんの姿に、キオウは全力で謝ることになるのである。
こうして、敵対派閥であろうとも、シャンプーとリンスという爆弾を持ち込んだことによって、スワン辺境伯領の商業的な壁が取り払われるきっかけとなったのであった。
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