25、元ゴブリン王都にゆく
――はぁー、へぇー、ほぉー。ここが王都か、すっげぇなぁ……。
「ふふっ、お上りさん丸出しのキオウも可愛いですね。はぁはぁ……丸出し!?」
――お嬢様の頭の中にはゴブリンが居る。
目が死んでいるキオウとはぁはぁしているシルヴィアは、帝国の侵略から国を守った褒美をいただくため、王都へと馬車でやって来たところであった。むろん、戦場にも行っていないキリムは連れて来ていない。
今回の王都来訪は、彼の家の息のかかった商会をやっつけるための策も兼ねていた。シャンプーやリンスは完成した。これをパーティーで他の貴族家に紹介することで、今まで敵方だった彼らを、少なくともそれらの商品を巡っては敵対しない、そうした関係に持っていくのである。
そこで辺境伯領に今まで訪れていなかった商会を引き込み、幅を利かせているベイリー子爵の商会を駆逐してやる。
駆逐してやる!
商業的な問題を解決してやる心算でいるのであった。
ただ、それはすでに約束された勝利のリンスであるため、シャンプーでも良い。むしろキオウの戦いとしては、そちらよりも今から向かう王都のスワン辺境伯邸の方であったろう。
――王都の屋敷にはいるんだよな? シルヴィアのお母様が!
思わず白目になってしまうほどの危機感だ。
別の馬車にはお義父様も乗っていたが、
『逢いたい、が、私は生きて帰れるのだろうか……? キオウから貰った精力剤や胃薬で、乗り切られれば良いのだが……』
キオウの中では、シルヴィアのお母様と言うワードが、普通の言葉である筈なのにパワーワードじみて聞こえはじめていた。
シルヴィアのお母様イズパワーワード!
「あ、此処です、ここが王都の屋敷です」
「すごく、大きいです……」
「ふふっ、キオウの方が大きいですよ?」
――意味が通じてるっ!? 俺、そんなネタ教えたっけなぁ……。
チラホラと、閨の記憶がないキオウである。
と、
「シルヴィア、久しぶりね」
「お母様!」
屋敷の玄関をくぐるとシルヴィアに良く似た美貌の女性が出迎えてくれた。
カロリン・スワン。
シルヴィアの姉にしか見えないシルヴィアの母である。
――デッカぁ……。シルヴィアもデッカいけれど、シルヴィア以上に……。
「キオウ?」
「いいいいやっ、なんでもないぞ?」
「私の方が良いこと、後で教えてあげますから」
「…………お手柔らかに頼みます」
「だが断ります!」
――なんか使いこなしてやがるぜ……。
気が遠くなりかけるキオウであったが、カロリンが視線を向けてきた。
「貴方がキオウですね。娘を助けてくださりありがとうございました。私はシルヴィアの母のカロリンです。以後お見知りおきを」
「いっ、いえっ、助けられたのこちらもと言うか、よろしくお願いします」
「ふふっ、気楽にしていただいて良いのですよ。貴方はもう私の息子になるのですから」
――そのおっぱいで育ちたかった……。って、冗談ですよ、シルヴィア=サン? そんな、“分からせてヤる!”って目で見ないでください、死んでしまいます。
「ふふっ、仲が良くって何よりね。ねぇ、貴方? 私たちも……ふふっ」
「お、おぅ、そうだな……」
――うわぁ、娘と同じ目でお義父さんを見てるや……。やはりサキュバスの一族……。ごめんなさい、お互いに頑張りましょう。
そんな目で見ていればお義父さんに頷かれた。
お義父さんっ!
「ふふっ、そちらも仲が良いようで……それに、キオウ。帝国軍との戦いもありがとうございました。貴方の御陰で我が領は救われました」
「ちょっ、頭を上げてください。それは当然です。何せ俺……私の妻の領なのですから」
「キオウ……ちょっとベッド行きません?」
「ご両親の前では止めない?」
「ふふっ、二人の部屋は用意してあるわ。ちゃあんと防音で、二人用の部屋がね?」
「流石はお母様です!」
「キオウ、そんな目で見られても私にはどうにも出来んのだ。私の方こそ助けて欲しいくらいで……」
――お義父さんっ……。
家族の微笑ましい再会の筈なのに、どうして涙が零れそうになるものか。感動の涙では間違いなくないのであった。
「ふふっ、感謝しているのも歓迎しているのも本当ですよ。ようこそ、キオウ」
「あ、ありがとうございます……」
キオウは、はじめて出逢ったお義母様に、社畜のように頭を下げているのだった。
◇◇◇
「ふぅ……、烈しい戦いだった……」
キオウはトントンと腰を叩きながら部屋から出て来た。
――あれ? まだ社交界にも出てないよね? どうして俺は死線をくぐってきたのだろう。――解せぬ。
そうしてリビングに出れば、
「お義父さんっ!」
真っ白になった彼が、……
「おぉ、キオウか、後のことは頼む、お前がいれば辺境伯領は安、泰……がくり」
「お義父さぁあああんっ!」
すぅすぅ
寝息が聞こえて来てホッとした。が、本気で眠ってしまったナニかがあったと言うことだ。と、
「あら、キオウ」
びくぅっ!
「どうかしましたか? そんなに驚いて」
「い、いえ……」
そこにはお義母様がいらっしゃった。そして、シルヴィアと似てつやっつやとしておられた。
「ふふっ、彼ったら頑張ってくれてしまって。キオウから色々と貰ったと言っていたわ。ありがとうね」
「い、いえ……」
むしろその所為で更にハッスルしてしまったのでは? と、真っ白になってはいたがヤり遂げた男の顔で眠る辺境伯家当主には心の中で謝罪と合掌を送っておく。そして、シルヴィアとはまた違った大人の色気を芬芬とさせてしまっているカロリンからは、そっと目を逸らしておくのである。
――お義母様、すっげぇ目に毒なんですけどぉ!? 俺、ゴブリンのままだったら襲ってたかもしれないぞぉ?
ゲギャゲギャ。
と、辺境伯家の屋敷に来てから、昨日は挨拶を終えて夕食を取って、そして今日はすでに昼過ぎだ。
『大丈夫です。お父様とお母様も昼過ぎまでは出て来ませんから、ね?』
とは(目線を隠して)某騎士隊長のお言葉であった。
――マジでやっぱりサキュバス一族だろ……。
いつの間にか聞いていたこととしては、やはり当主も入り婿であったらしい。ますますお義父さんには親近感が湧いてしまうキオウである。
「ところで、キオウは更に進化するのかしら?」
「うぉう?」びっくりとしてしまう。
「ふふっ、シルヴィアから聞いたの。あの子 流石は私の娘ね」
ナニが、とは絶対に訊けないのである。
だが、
「良いのですか?」
「何がかしら?」
「それは……」
邸内だとは言え明言は避けたのだ。キオウが口にするわけにも行くまい。が、
「えっ……」
キオウは、カロリンに抱き締められていた。
「大丈夫、貴方も私の息子よ」
「お義母さん……」
「ふふっ、素敵な息子が出来て私も嬉しいわ」
「………………」その時、キオウの頬を伝うものがあった。
だがそれは冷たくはなくて、温かくて、……
「ありがとう、ございます」
声が震えないようには注意した。
この世界に来てはじめて触れる母の温もりというものに、キオウはしばらくの間大人しく包まれているのであった。
が、
「お母様? キオウ……?」
「シルヴィア、ちょっと待とうか? 話し合おう」
「ええ、ベッドの上で、ですね?」
「違うよ! 冷静に、肉体言語じゃなくって言葉で話し合おう!」
「大丈夫です、キオウ、私はちゃあんと分かっておりますから。確かにお母様の方が大きいですが、私もキオウのママになれることは証明してみせますから」
「確かになんかちゃんと分かってるっぽいけど、その上で曲解されてらっっしゃるっぽい!?」
「さあキオウ、イきますよ。ハリーハリー!」
「きゃああああっ! 助けてぇ、お義母様ぁあっ! にこやかに手を振ってるんじゃなくってぇっ!」
「――と、」娘夫婦が再び寝室へと消えてゆけば、「起きてますよね? 貴方?」
「………………びくぅっ」
「ふふっ、それでは私たちも……ふふっ、ふふふふふふっ🖤」
「助けてキオウぅうっ!」
屋敷には、厳ついおっさんが助けを求める声も聞こえたのだと言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます