23、商売テンプレ

「んで、えーっと、シャンプーって言うのは……」

「そんなことよりもローションの話をしましょう!」

「お前の領のための話だった筈なんだがなぁ!?」

「子孫繁栄よりも大事なことがあると?」

「俺の方も子孫繁栄に関わってくるとは思うんだけどなぁ……」


 ゲンナリとするキオウはシルヴィアと共に辺境伯領の領都へと戻ってきていた。そこで彼は、シルヴィアと話せるようになってから色々と話を聞く間、好ましくない商会が這入り込んでいる対策として、異世界転生オア転移テンプレ(あるある)の、伝家の宝刀シャンプーを提案していたため、喫緊の帝国の問題が片付いた今、それに着手していたのであった。

 だって言うのにこのポンコツ痴女騎士ときたら!


「ローションっ、ローションっ、はいっ、はいっ」

「手を叩いてはしゃぐんじゃありませんっ!」

「しゅーん……」

「くっ、そんな可愛い子犬みたいな眼で見たって騙されないんだから」


 本当に。

 だってローション欲しいって言っているだけなのだもの。


「まあ、作ることは作るけどな? まずはシャンプーやボディーソープを作って、流れとしては王家にも献上しつつお墨付きをいただいて、大々的に売り出すのが商売テンプレだよな」

「それからローション格闘ですね! キオウとくんずほぐれつ……でゅふふ」

「えっ、ローション相撲とか俺教えてない……」


 やだ、この子のエロポテンシャル高すぎ……?


 ――色々と心配になるなぁ……。


 はやくこの嫁どうにかしないと。と思いつつ、キオウがシャンプー作成を急いでいた。だって言うのにこの痴女騎士嫁は!


「ですが王家のお墨付きを貰えたところで、貴族派閥のイチャモンは止められませんけれどね。だからこそ我が領が国防の要でありながらも、王家の支援が十分にいただけていないのですから」

「マジかー、王家弱すぎかよー……。だからと言って王家を強くするくらいなら辺境伯家を強くするわ。今ですら強いことは強いんだろうけどな」


 何せほぼ領軍で帝国軍を押しとどめていたのである。更には他の貴族の支援どころか妨害工作まで受けながら。


「それはモチロン」元から高い鼻を更に高くする嫁はウン可愛い可愛い。

「もっとください!」

「まさか今俺の心を読んだ?」

「いいえ、褒めてくださっているような顔をしていました。キオウはそういう時とても優しい顔をするので、とてもムラムラしてしまいます」

「最後のでいい話が台無しだよ!」


 と、イチャイチャワチャワチャやりながら、


「出来た! とは言ってもまだ試作品だけどな。これから更に調整していって……」

「では試しましょう! さあキオウ、一緒にお風呂に参りましょう! 私の髪も、下の髪も、隅々まで洗ってみてください!」

「ホント、いつからこうなった……、あれ? 言葉は通じてなかったけど、この雰囲気最初っからな気もするぞぉ?」


 嫌な現実に直面してしまったキオウであったが、美貌の嫁からお風呂に誘われれば、いそいそと彼女に着いていくのであった。

 ちゃっかり作っていたローションも一緒に持ち込んで。



   ◇◇◇



「おぉ! とうとう出来上がったのですね! 試作品でも素晴らしかったのですから、完成品はさぞかし素晴らしいことでしょう。妻が待ちわびておりましてね。……ところで、キオウ殿、頬が痩けておられませんか? シルヴィア様は艶々しておられますが……」

「ははは、いっぱい作って試しましたから」

「はい、いっぱい作ってもらいましたから!」


 キオウお手製(意味深)のシャンプーも。


『シャンプーとあれってどろりとしたところ似てません?』


 そう言ったシルヴィアが本当にヤらかすとは思ってもみなかった。あんなプレイは二次元の中だけだったと思ったが、流石は異世界ファンタジー。ゴブリンから進化した鬼人の精力でヤれてしまった。その代償としてシルヴィアは艶めいて、キオウは頬が痩けていたのであったが。


『お母様に教えてあげませんと』

『お義父さんごめんなさいッ!』


 辺境伯は帝国軍ではなく身内に殺されてしまう。

 胃薬や精力剤の制作にも着手しようと決意したキオウである。


「これは確実に売れますよ」

「はい、そうであると嬉しいです」


 頬の痩けた社畜のようになったキオウは、招いた商人に意気を返す。ちなみにキオウが搾取されているのは、シルヴィア・カンパニーであることは言うまでもないのである。


「では、売り上げはこのように……」

「はい、問題ありません」


 そこではシルヴィアが応答をした。腐っても――熟しても彼女は騎士隊長も務める貴族令嬢だ。ただ令嬢であれば商家とのこうしたやり取りなど行わないだろうが、彼女は率先してキオウの力になってくれた。――いや、キオウが彼女の力になっていたのだから、お互いに支え合っていたと言えよう。


「ありがとうな、シルヴィア」

「礼を言うのはこちらのほうです。素敵なものを作っていただいて……🖤」


 ――ねぇ、シャンプーのことだよね? シャンプーのことだって言ってくれよぉおっ!


 キオウローションぬるぬる。

 キオウは彼女と二人三脚で、異世界商売テンプレであるシャンプー、ボディーソープ、そしてリンスの製造、販売を押し進めていくことを画策していたのであった。

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