18、決闘
「ふっ、降参するのならば今のうちですよ」
訓練場でそう見下した目を向けてくるのは、整った顔立ちながらも嫌らしさが粘りつく、大柄の金髪青目の青年だった。
剣を構える彼に対峙するのは、背が高くがたいが良い。しかしゴリマッチョではなく均整の取れた細マッチョ体型の鬼人の青年。黒く黒い黒髪を無造作にして、額から一本角の生えるワイルドなタイプのイケメンだ。
キオウは、シルヴィアが率いるスワン辺境伯騎士団第二部隊の副隊長、キリム・ベイリーから決闘を挑まれ、剣を構えて対峙しているのであった。
――どうしてこうなった?
キオウは、ゲンナリとしてしまうのである。
◇◇◇
辺境伯領の領都へと辿り着いたキオウたちは、早速とばかりにシルヴィアの生家であるスワン辺境伯邸へと向かった。道中、領民たちが驚きの声を上げ、泣きながら彼女無事を喜び、隣にいる鬼人族の男性は誰だ?
『私を危ないところで助けてくれた最愛の男性です』
頬を染めながらシルヴィアが答えたことで、歓声は爆発的なものとなった。相手は亜人、鬼人(族の見た目)ではあったが、彼らはむしろ歓迎してくれる様子であった。見れば人間以外の種族もチラホラ見受けられる。辺境伯領は種族に寛容な土地であるらしかった。
屋敷へと辿り着いても無事を喜ばれ、キオウの存在を答えれば、
『ようやく、お嬢様に、春が……』
『めでたい!』
『無理だと思っていたのに……』
最後の奴はお嬢様直々にアイアンクローを噛まされていた。
むろん、兄であるギルバートも目尻に涙を溜めながら喜び、妹を頼むとすでに言われる始末。
自分は平民で亜人――流石に元ゴブリンとは言えやしない――だが大丈夫かと問えば、
『今の状況ならば角も立たないだろう。それが亜人であろうともな』
危ないところを助けられたと言えども、それを知っているのは二人だけ――否、正確にはキオウだけであって、ゴシップ大好きで猿よりもマウントを取りたがるこの国の貴族たちにしてみれば、もはやすでに瑕疵であって、まともな嫁ぎ先は考えられまい。だからこそ、自分を助けてくれた平民に嫁いだのなら、ヒロイックであって平民から支持され、貴族たちが後ろ指を指そうとも、指されて不利になる内容もないのである。
キオウにしてみても、他が何を言おうともシルヴィアのはじめては自分であることは分かっているし、シルヴィアもこのまま第二部隊隊長で居られる、キオウはその実力を確かめてからになるが、第二部隊でそれ相応の地位に任じられる。
そう、話がつきかけたとき、彼はやって来たのであった。
「その亜人が真実を言っているとは限りません。或いは手籠めにしたシルヴィア隊長を元に伯爵家に取り入ろうとしているのやも知れません!」
キリム・ベイリー。
ゴブリンよりも害虫のような男であった。
が、
「そんな、手籠めだなんて……」
照れ照れ。
牝の貌を見せるシルヴィアに、誰もが驚愕したのである。
――おいおい、お前、本当に貴族子女なのか……?
キオウが愕然とする前で、
「ここは第二部隊副隊長として私が一肌脱がなくてはならないようですね。決闘です。私が貴様を叩きのめし、シルヴィア隊長の目を覚まさせてあげましょう。そして私の妻にしてあげましょう。ゴブリンやこの亜人の慰み者になっても、可愛がってあげますよ、ククク……」
「ねぇ、こいつ殺していい?」
『どうぞどうぞ』
キオウの言葉には、皆が口を揃えたのであった。
そして現在――、
◇◇◇
「えっ、これで終わり?」
「ぐぅっ、貴様ぁあ……っ、私を誰だと思っている、ベイリー子爵家の次男だぞ。平民ごときが勝って良い相手ではないのだぁ……っ」
「いや、そう言われてもかったものは勝ったし……」
「くっ、この領での商売がどうなるか分かってるんだろうなぁ」
「知らんし」
「ぐぬぅっ」
はじまった瞬間にキオウが飛び出し、一閃。
勝負は決まったのであった。
『えっ……これが副隊長? 嘘、弱すぎ……』
とポロッと言ってしまったのはご愛敬である。
勝負は回想中に終わってますよ。
『わぁあああっ!』
途端、湧き上がった歓声。第二部隊の多くのメンバーが歓声を上げ、キリムの子飼いの輩たちは憎々しげな顔を見せる。
と、
「皆、見ただろう! これが妹の婿になる男の実力だ! 我が領は安泰だ!」
『わぁあああっ!』
ここぞとばかりにギルバートが声を張り上げる。それにやはり沸き立つ騎士達なのだ。
キリムやその子飼いの者たちは忌々しい貌。
雑なざまぁであった。
――いいや、まだ終わりではないのだけれど。
そして、
「なぁ、キオウ」
「はい」
「ヤらないか?」
「うぇえっ!?」
とギルバートが行ってきたが、むろん剣を差し出してのことである。
「貴殿の実力はキリム程度では測れないことが分かった。だからああは言ったが、仕切り直しだ」
「そう言ってお兄様はキオウと戦いたいだけですよね?」
「ははっ、そうとも言う、それで、ヤらないか?」
――なんか尻が寒くなるのは気のせいだと思いたいけど、「はい、良いですよ」
「おぉっ!」
そうして、真打ち登場となるのである。
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