16、目覚め
洞窟の中にも朝の空気は沁み渡る。
「うっ、うぅん……」
そこで一匹の――否、が、目を覚ます。
「朝……か」
チュンチュン。
「ヤっちまったなぁ……」
起きたばかりでも頭の中はかなりスッキリとしていた。まるでゴブリンの本能が満たされきったよう。いや、
「……なんか、もう吸い出されてたよな? ゴブリンを呑み込んじまう女騎士ってなんなんだよ。――サキュバスかな? 正直色々とはやまった気がしなくもない……って、あれ? …………俺、喋れてねぇ? おぉッ! やった、喋れてるっ!」
「うぅン……」
「と、五月蠅くし過ぎたか……って、ン? あれ? 俺の躰、デッカくなってる……? うぉっ、手も人間の手みたいになってるぞ……?」
ぐっぱっとしてみれば自分の手である。顔も触ってみれば醜悪なゴブリンの顔ではない様子。しかし、……
「…………あれ? 俺は俺って分かるけれど、シルヴィアって……」
サァア、と血の気が引いた。もしも今シルヴィアが目覚め、彼のことをゴブリンだと想っているのに別人の見た目になっていれば殴られてもおかしくはない。その細腕ながら魔力でも廻しているのか強靱な膂力の細腕だ。
イッパツで気持ち良くなっちゃうよ。
「そっと、今のうちに抜け出して……」
「うぅん、ゴブリン……?」
びっくぅんッ!
マズい! と思えども、シルヴィアの腕が甘えるように回され――それはまるで死神の鎌のように感じられた――、彼女は頬ずりをして逃れられない。
「ふふっ、大きい、ちょうど良い大きさになってくれましたね」
――死ぬッ!? 「……って、あれ? シルヴィア、分かって……?」
「当然です。昨日はその姿になってからもシましたよ?」
ホッと胸を撫で下ろした。「そう言えば俺も普通にシルヴィアって呼んでるな」
「はい、キオウ」
「あれ? 俺の名前キオウ……確か、そうしたんだっけ……あれ? そうなったことは覚えてるけど……なんでボンヤリとしてるんだ……?」
ボンヤリとして思い出せぬ。
と、
「ふふっ、何せ昨日は良い声で啼いてくださっていましたから……でゅふふ」
「……………………」――多分、忘れた方が良いことなんだな。
そんな気がした。
が、兎に角、
「…………ま、喋れるようになって良かったよ、シルヴィアの言葉も分かるし、俺、ちゃんとシルヴィアのことを知りたかったから」
「はい、私もです。ですが、昨夜はキオウのことはたくさん教えていただきました。言葉でも、躰でも……きゃっ」
「………………」――あれぇ? 俺、もしかして色んなもの吸い出された? やっぱり記憶がボンヤリしてるんだけどぉ? まさか俺が大きくなれたように、シルヴィアの先祖にサキュバスの方がいらっしゃったりしませんでした? ま、まあ、いったんは置いておいて……と、
「お? そう言えば俺の躰治ってる?」
「はい、その躰に進化されてから、怪我は治られたようで、私も随分と激しく……きゃっ」
――やっぱりサキュバスの血が入ってるよなぁ、この人……。
だが、そう考えたことが悪かったのか。
「ですが、」
「うぉっ!?」
「ふふっ、起きたのならばまたカウントは一からですよね?」
「……え?」
「シませんか?」
トロンとして潤んだエメラルドの瞳に上気した頬。一糸まとわぬ肢体では重たげなものが重力に引かれてたゆんっと揺れ、彼女の隅々までが丸見えとなっていた。
そして、その薄桃色の胸の先っぽがぷくぷくと、……
「――ゴクリ」
「ふふふっ、貴方もその気のようで嬉しいです🖤 それ、ではぁ……」
「おぉっ」
「はぁあンっ」
朝からお盛んなことであった。
ちなみにキオウは頑張って、なんとかついていくことがデキた。
◇◇◇
「…………あれ? 太陽が黄色いぞ? それにもう昼過ぎてんじゃねぇか……」
「あぁ、まだ貴方が入っているようでぇ、うぅんっ」
「うぅんっ、は良いからちょっと冷静になろうか?」
「私はいつでも冷静ですよ?」
「冷静で、これ……?」
それはむしろ恐るべき事だ。が、
「…………それで、今の俺の見た目は鬼人族のようになってるってことなんだよな?」
「はい、ちなみに、…………とても格好良いです🖤」
「お、おぅ……ありがとう……」
「ふふっ、照れているのですか? 格好良くても可愛いですね」
「そりゃあシルヴィアみたいな美人に言われたらそうだろ」
「あ……りがとうございます……ごにょごにょ」
「えぇっ、それで照れるのかよ、美人だなんて言われ慣れてるだろうに……、俺の
「やぁん、もうっ、もう一度ベッド行きます?」
「それはいったん冷静になろうか?」
ゴブリンから進化して、精力もある筈の鬼人が真顔になってしまう。
が、兎に角、
「…………だから、今の俺ならシルヴィアと一緒に人間の街に着いていっても良いと……」
「はい、いいえ、むしろ来ていただかないと……」シルヴィアは切なげで寂しそうな顔。
「そうだよな、婚約者としてだし、この森を抜けるためにも、そして、色々と、だな」
「はい、色々と、です」
「ははっ、安心しろよ」とキオウはシルヴィアの頭に手を置いた。今やキオウの背はシルヴィアよりも高い。優しく撫でればうっとりとしだれかかってくれる。
キオウは愛おしさを膨らませながら、
「俺がシルヴィアの力になる。どこまで出来るかは分からないけど、出来ることはなんだってやってやる。何せ、俺が惚れた女だからな」
「キオウ……」
肩を抱き寄せれば柔らかく華奢な彼女の体温が伝わった。たとえ騎士として筋肉はついていても、鬼人となった今のキオウからすれば華奢な女の子である。
「…………ちょっとまたベッド行きません?」
「行きません! もう、真面目なことを言ってたんだけどなぁ」
「ふふっ、本気ですけど冗談にしておきます」
「やっぱりシルヴィア、サキュバスだったりしない?」
「何代か前にもしかすると……」
「マジで!?」
「ふふっ」と彼女は笑うと、
「ありがとうございます、キオウ」
「おう」
彼女の感触が愛おしい。
「じゃあ、ベッドに行きます?」
「おぅ」
そうなることはそうなるのであった。
◇◇◇
それから数日は調整に費やした。
その結果分かったこととしては、
「はぁっ、はぁっ、うぅんっ、キオウ、素晴らしいです」
「すっげぇな、これが鬼人の力か……」
「いいえ、鬼人の力ではありますが、鬼人族でもここまでではないかと。やはりゴブリンから進化した鬼人、キオウの力です。あんなに小さなゴブリンであったのに、もう、私は勝てないではありませんか。夜もしっかり組み伏せられるようになってしまいましたし……はぁはぁ」
「それでも夜はちゃんと受けきっているシルヴィアが凄いんだよなぁ……。ゴブリンから進化した鬼人の精力を人の身で受けきるって……」
「私ですから」
「そうだな、シルヴィアだもんな」
「「はははっ」」
朝に昼に晩と、躰の使い方や剣術、諸々の出来ることを確認すれば、鬼人のポテンシャルが凄まじいことが分かった。
「これなら森を抜けることは容易いですし、お父様たちの力になることも……、しかし、良いのですか、キオウ、下手をしなくとも、人を殺すことにはなると思います」
「大丈夫だよ、この世界がそう言う世界だってことは聞いたし、ゴブリンとして体験もしてきた。確かに俺は人を殺したことはないけれど、……もう、覚悟はしている」
「キオウ……ありがとうございます」
「おう」
と、シルヴィアの性欲の方も普段は落ち着く兆しを見せてきた。
そして荷造りも終え、準備が整ったのである。
「こっちの世界ではじめての人間の街だな」
「はい、色々とごたごたはしていますが、街としては良いと思います」
「色々とごたごたね」
「はい……」
と、キオウはシルヴィアの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「そんな顔をするなよ。それをどうにかするために行くんだろ? シルヴィアも、俺の力ならどうにか出来るって言ってたじゃないか」
「はい、そうですね! はい、異世界知識チートですか。今から楽しみです」
「ははっ、その意気だ」
「はい、生まれてくる私たちの子のためにも、頑張らないといけませんね」
「…………いずれはそのつもりだけど、まだだよね?」
しかもすでに出来ているとなれば、それはゴブリンの時の子か今の子か。
「さあ、どっちでしょう」
「いや、待って。ゴブリンだったら目も当てられないからね?」
「私は貴方ならゴブリンの子を生んでも良いと思っておりますが……、そうですね、ゴブリンでも貴方だったから特異であっただけで……、安心してください、避妊魔法は使っていましたから」
「良かったー……」
「しかし、いずれ、いずれ、ですねでゅふふ🖤」
――シルヴィアって時々オタクみたいな笑い方になるよなぁ。……もうそんなところも可愛く思うようになっちゃってるけど。
「ま、兎に角、まずは森を抜けて帰るか、行こう、シルヴィア」
「はいっ、キオウ、旦那様🖤」
「おぐぅっ、なかなかキくなぁ」
「ベッドに行きますか?」
「それは着いてからな」
「はい、分かっています」
ワチャワチャと、イチャイチャと、二人は辺境伯領の領都へと、洞窟から旅立つのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
と、言うワケで、
ええ、宣言通り一章を越えるとタイトル詐欺になってしまうのですよねぇ……。
二章からは、
見境なくは襲いかかりたくない転生者ゴブリン(元)と、それは持て余した性欲が許さない残念(痴)女騎士の(ある意味)不毛な攻防
とでも……。中途半端っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます