14、看病
洞窟へと彼を連れ込――連れ帰ったシルヴィアは、レザーアーマーを脱がせ、彼の緑色の素肌を見て、顔の半分をニヤつかせ、半分を顰めた。あしゅらシルヴィア。
「やはり酷いですね……」
血の滲んだ肌をそっと労るように撫で、彼が自分にしてくれたように、湿布薬の準備に取りかかった。湿布薬とは言っても、当然この世界では薬草などを煎じたものを布に染み込ませ、上から包帯で巻くのである。
この一ヶ月間で勝手知ったる同棲相手の住処で、材料を取り出し道具を取り出し煎じ始めた。
「これくらいですね」
ちょうど良い塩梅にすると丁寧に貼り付け、包帯を巻き始める。
「……このように小さな躰で、私を奪われないようにと……でゅふ、でゅふふふふ♪」
お嬢様が撫でる手つきがいやらしい。
彼を心配しなくてはならない場面であったが、どうしても顔のニヤけが止まらない。
『俺の女に手を出すんじゃねぇーッ!』
とぅんく。
何度思い出しても胸の高鳴りが止められない。
「……私、貴方に恋をしてしまっていたようですね。……貴族令嬢が、ゴブリンに……もぅ、ここで貴方の子を生みながら暮らしたい……はぁ」
お嬢様の憂悶の溜め息も止められない。
だが自分は帰らなくてはならないのだ。……今はまだ帰らなくても良い――帰ってはいけない理由が出来たけど。
「彼が治るまではここに居て良い……、いえ、ここに居なくてはならない、ですね」
それをはき違えてはならないのだ。
それを取り違えたとき、自分は自ら彼の子を求めるようになる。シルヴィアはそう確信していた。
「……扠、しばらく彼は目を覚まさないでしょうし、それでは……」
と彼女は役得とばかりに服を脱ぎはじめた。
上だけではなく下も脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ裸体を曝してしまう。
いそいそと彼の眠るベッドに共に横たわると、そっと抱き締めて彼女自身も目を閉じる。緑の醜い小鬼の頭が白く美しい豊満な胸元へと抱き締められる。
ゴブリンの本能が刺激され、回復もはやいに違いない。だから裸で抱き締めるのだ。他意はない。ないったらないのである。
「お休みなさい、私の愛しいヒト」
静かに、シルヴィアの寝息が立ち始めるのである。
◇◇◇
『グギャアッ、ゲギャアッ!』
彼がゴブリンとして生を受け、休まる時はなかった。
同族同士の巣穴で暮らしていたとは言え、それはゴブリンであって、お互いに言葉での意思疎通が叶わぬモンスター同士である。
気を抜けば殴られ、気を許せば裏切られる。いや、裏切られると言うのはまた違う。何せそもそも信頼が存在していないのだったから。
そのような暮らしで彼は着実に力を付け、そしてこの洞窟を見つけて整備することに成功した。それは『隠蔽』のスクロールを見つけられたことも大きかっただろう。
そうしてゴブリンの巣穴を見限ったことは正解だった。彼自身は気が付いてはいなかったが、元の巣穴はもうない。シルヴィアがホブラックゴブリンに攫われはしたものの、あの際の討伐自体は成功したのである。
シルヴィアを喪ったことは、何にも増した失敗ではあったが。
そしてホブラックゴブリンに攫われて来たシルヴィアを助け出し、蜜月とも言える時を過ごし、そして今回、生きていたホブラックゴブリン――黒鬼を討伐することに成功した。
共にシルヴィアが裸で寝ているのは、勝者の特権と言えたに違いない。
そこで、
・一定以上の経験値を取得する
・一定上の剣術を取得する
・一定以上の魔法の使用経験がある
・ゴブリンの本能に打ち克つ
・誰かを想って想われる
彼はいくつも条件を満たしていたのである。
そしてそれは後一つ――、
「ゲ……、ギャア……(あれ? 俺は……)」
深夜、彼は熱っぽい感覚と共に目を覚ます。
熱っぽく、そして圧倒的に柔らかかった。
「ぅん……」
「ゲギャっ!?(うぉっ!? ちょっ、シルヴィア裸じゃねぇか……って、まさか下も……? うわぁ……)」
お嬢様、はしたないですよ。
とは思えども、彼の言葉はシルヴィアには伝わらない。それどころか、
どくん
どくん
「ゲギャ……?(は? なんだ、これ……)」
心臓が……否、股間の心臓が高鳴っていた。
「ゲギュウ……っ(ヤベぇ、すっげぇムラムラするっ)」――ぐっ、痛……っ、うぅっ、ヤバいヤバいヤバい、なんだ、ムラムラが、抑えられねぇっ……!
「ゲッ、ゲギュウッ」
どうしたことか、ここしばらく抑えられていたゴブリンの本能が咆哮を上げていた。
股間は痛いほどに硬くなって、今にもこの自分を抱きすくめている女を犯したい。
「ゲッ、ゲェッ」――だっ、駄目だ、そんな、今まで我慢できてきていたのにっ……。
それは今日黒鬼と戦って昂ぶっていたから。怪我を負って、子孫を残そうという本能が目覚めてしまった。魅惑的な裸の女に抱き締められていたから。そして、シルヴィアが彼に念のためと飲ませた煎じ薬が、滋養強壮作用を持っており、元から精力旺盛なゴブリンに飲ませてしまっては、媚薬のように作用してしまったから。
どれがどのように作用したものか。
「フーッ、フーッ」
荒い息をすれば甘い女の薫りが脳髄を侵す。自身を抱きすくめる彼女の体温、そして柔らかさが、人間としての理性をグラグラと揺すぶってゴブリンの箍を外させようとする。硬くなったモノを知らないうちに彼女に擦りつけ、
「良いですよ」
「ゲギャッ!?」
「昂ぶって、我慢が出来ないのですよね? 良いですよ。私に、来ても……」
「ゲギャアアっ……」
何故か今は彼女の言葉が分かった。そして甘ったるい女の声で言われたなら、
「ゲギャアアッ!」
「あっ🖤 あぁ、ようやく……はぁんっ……」
そして、この日二人は番となったのだった。
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