第8話:信じろよ、母ちゃん。
俺は羅利子を連れて、木の電話ボックスからバス停横の電話ボックスに出た。
「羅利子、キョロキョロしないって・・・」
「ずっと森にいたから・・・こんなところ・・・」
「街に出たことないのか?」
「あるにはあるけど滅多に・・・壮太、置いてかないでよ」
「大丈夫だよ、俺は約束は守る男だから・・・」
「今からバスに乗るからな」
「バス?」
「動くでっかい箱・・・それがバス・・・そうとしか説明しようないし」
「バスが来たら、分かるわ」
そう言うと俺はバス停の時刻表を確認した・・・まあ見なくても時刻は大体
知ってる・・・いつも利用してるからな。
「17時25分ってのがあるな・・・」
「そいつに乗るからな、羅利子」
「・・・・・」
「羅利子?」
(って、いないじゃねえかよ、もう)
「・・・さっそく迷子か?・・・羅利子・・・羅利子〜」
そのあたりを見回してみても、いない。
「ったく、どこへ行ったんだよ・・・」
もしかしてって思って俺は、電話ボックス前のコンビニを覗いてみた。
いたよ・・・。
「なにやってんだよ、勝手にウロウロするなって迷子になったらどうすんだよ」
「私、お腹すいた」
「まじでか?・・・」
「あれ、食べられる?」
羅利子が指差したのは、おにぎりだった。
「めっちゃ美味しそうに見えるんだけど」
「あれは、おにぎりだよ」
「おのぎり?・・・美味しそう」
(なにしろ、羅利子をないがしろにしたら不幸貧乏になるからな・・・
買ってやるか)
そこで俺は羅利子におにぎりとお茶を買ってやった。
羅利子はバスの中で、俺の顔を見ながら美味そうにおにぎりを食べた。
バスは俺と羅利子を乗せて夕日が沈む海岸線を西に向かってブヒブヒ〜って
走って行った。
30分ほど走るとバスは俺んちの近所のバス停に停まった。
バス停からはふたりで俺の家まで歩いた。
「羅利子・・・ここが俺んち、なんてことねえ家だろ?」
「大丈夫だよ・・・いつかビルが建つから」
「え?俺の家、誰かに買い取られるのか?」
「そうじゃないよ・・・いいから家の中に入れて?」
「ただいま〜」
すると、母ちゃんが血相を変えて居間から、ドタドタやってきた。
「壮太!!あんた、どこで何してたのよ?」
「学校から、あんたが無断で休んでるって連絡があるし、何日も帰って
来ないし・・・心配するでしょうが」
「よっぽど警察に届けようかと思ったわ」
で、母ちゃんは俺の後ろで小さくなって上目遣いで母ちゃんを見ている
羅利子を見た。
「え?誰?その子・・・」
「あ〜あのな・・・」
「あんた・・・あんた、まさか誘拐?」
「なわけないだろ・・・人に頼まれたんだよ」
「頼まれた?・・・誰に?」
「とにかく、説明してやるから上にあがらせろよ」
そう言って俺は羅利子を居間に連れて行ってソファに座らせた。
「この子、
「え?、なに?、もりかっぱ?」
「わざとらいい間違い方だな〜」
「ほれ、羅利子・・・俺の母ちゃん・・・」
「・・・・」
「黙ってないで、なんとか言えって」
「おしっこ」
「え?」
「おしっこ〜」
「おしっこって・・・小学校低学年か・・・」
「お前さ、俺とタメくらいの歳だろ?」
「漏れちゃう・・・」
「待て待て、漏らすな・・・トイレ、トイレ」
俺は羅利子をトイレに連れて行った。
妖怪はおしっこなんかしないのかと思ってた・・・俺の間違った先入観だよな。
羅利子がルンルンでトイレから出てきたので俺は改めてこれまでの出来事を
母ちゃんに話して聞かせた。
「う〜嘆かわしい・・・そんな大ウソをついて女の子まで誘拐してきて・・・
情けない 」
「悪いことは言わないから、その子連れて警察に自首しよう」
「違うってば」
「あんたの息子を信じろよ・・・全部本当のことなんだから」
「誘拐なんかじゃねえし、ばあちゃんにも頼まれたし羅利子も同意の上だよ」
「な、羅利子・・・」
「私、壮太に取り憑いてるから離れなれないの・・・おばさん」
「おばさん?・・・まあ、たしかに・・・おネエさんじゃないわね」
「って言うか、なにそれ?取り憑いてる・・・って?」
「この子、座敷わらしだから・・・」
「ざ?・・・ざしき?・・・ざしきわらし?」
「母ちゃんだって座敷わらしの話くらい聞いたことあるだろ?」
「家に住まわせといたら大金持ちしてくれるって市松人形みたいな子のことだろ」
「昔とはかなりに違ってるんだろうけど・・・まあ、そんなもんだよ」
「だから、ここに置いてやってくれよ」
「うん、いいよ・・・ずっといてくれていいからね、らりかっぱちゃん」
あ〜あ、母ちゃんは絶対私利私欲に走ったな・・・。
つづく。
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