第3話:羅利子拝(らりこっぱい・・おっぱいじゃなくて)

縁あって俺は今、脂粉仙娘しふんせんじょうってばあさんの家にいる。


日本家屋なのに室内はなぜか洋風、和洋折衷なたたずまいで洒落た家具類

が置かれてあって落ち着いた雰囲気。


素敵な部屋ですね、なんて社交辞令はばあさんには必要なさそうに思えた。


「待ってね、今紅茶でも出してあげるから・・・」


「あの、脂粉しふんさんはここに一人で住んでるの?」


「今は一人だけど、二日前までは孫と住んでたの・・・」


「そうなんだ・・・でその孫ちゃんは?」


さらわわれたのよ、「呪凶淫妃じゅきょういんき」って女に・・・」


「攫らわれた?」


「油断してたわ・・・」

「孫は黄泉の国の入り口、黄泉比良坂よもつひらさかってところに連れ去られたんだよ」


「それって死んだやつが行くところだろ?・・・黄泉なんとかって、なんとなく

聞いたことあるわ」


「私の孫の名前は「羅利子拝らりこっぱい」って言うんだけど・・・」


「え?らりおっぱい?」


「おっぱいじゃなくて、こっぱい・・・らりこっぱい」


「ほう〜そうなんだ・・・らりこちゃんか・・・」


「あんた、すぐ人の名前、省略したがるね」


「フルネームだと覚えにくいし、ややこしいじゃん、それにらりこちゃんって

呼んだほうが可愛いだろ」


「ふ〜ん、今時の若者だね・・・まあいいわ」


そう言って脂粉さんはメモ紙を俺に渡した。


そのメモに「羅利子拝 らりこっぱい」って書いてあった。


「孫の名前を漢字で書くとそう書くの・・・」

「ほら、せっかく入れた紅茶・・・冷めるから早く飲みな・・・」


俺は出された紅茶を一気に飲みほした。


「あのさ、そもそも脂粉さんと孫ちゃんって何者?」


「壮太くん、妖怪って知ってる?」


「知ってるけど・・・待て待て待て・・・まさか私たち妖怪よ・・・なんて

言わないよね」


「言うよ・・・私と孫は妖怪だよ・・・それに孫は特別なんだ」


「私の孫はね、私の息子と呪われた女の魂から生まれたんだ」

「だから特別な魂を持っててね、で孫の魂を喰らうと人知を超えたパワーが

得られるらしくて、おまけに不老不死になるってことらしい」


呪凶淫妃じゅきょういんき」とかって名乗った女が孫をさらって行くとき、

そんなことを言ってたよ」


「孫を救い出したかったら黄泉比良坂よもつひらさかまで来いって言われ

たんだ」

死返玉まかるがえしのたまを持ってきたら孫は返してやるって」


「なにその、まかるがえし?・・・のたま?って?」


俺がそう言うとは脂粉さんは、二個の勾玉を取り出して俺に見せた。


「これはね、死返玉まかるがえしのたまと言って死者を甦らせる力を持つ勾玉」

十種の神宝とくさのかんだからって宝の中のひとつ」

「私の家に代々伝わる神宝だよ・・・ただし一度使うと300年は使えなくなるんだ」

「私は一度も使ったことないけどね・・・」


「そこで壮太くんの出番・・・」


「お〜っと、なに出番って・・・分かるわ・・・俺に孫ちゃんを救いだして

来いって言うんだろ?」


「飲み込みが早いね・・・壮太くん」


「つうかさ、そんなの脂粉さんが自分で救出に行けばいいじゃん?」


「私は無理だけど、壮太くんならできると思うからお願いするの・・・」


「なんで脂粉さんじゃダメなんだよ?」


「孫を救い出しに行ったら、かならず女妊洞にょにんどうって子宮道を通らなくちゃ、現世には戻ってこれないんだよ」

「子宮道は女同士じゃ通れないの・・・かならず男女一対じゃないとダメなんだ」


「そうなんだ・・・面倒くせえ・・・」


「ってことで、ここは壮太くんじゃないと・・・」


「救い出すたって、それじゃ俺は死ななきゃいけないんじゃないのか?」


「そうだね」


「簡単に言ってくれるね、羅利子ちゃんを見つけても、どうやって帰って

来るればいいんだよ」


「大丈夫だよ・・・」

「この死返玉まかるがえしのたまを持っていけ・・・ひとつは壮太くんのぶんで、もうひとつは羅利子のぶんだからね」

「この勾玉を握って、「ふるべ ゆらゆらと ふるべ」って唱えるだけでいいから」

「落としてなくさないように・・・なくしたら二度と現世には帰ってこれないよ」


「ふるるべ・・・ゆらと・・・るべ?」


「ふるべ ゆらゆらと ふるべ・・・ちゃんと覚えておくこと」


「あと死返玉まかるがえしのたまは子宮道を抜けて現世に近くないと使えないからね・・・黄泉比良坂よもつひらさかにいる時に使うと逆に地獄に飛ばされるよ」


「わ〜俺の責任重大」

「ビビるよな・・・でも、そんな話、聞いちゃったら後戻りはできないし」

「分かった、脂粉さんの代わりに俺が羅利子ちゃんを救いだして来るわ」


「で、俺は脂粉さんに「そんなつもりじゃなかったの、ごめんなさい」

って言われながらブスって刺されて死ぬのか?」


「あのね〜・・・男女のもつれじゃないんだからさ・・・」

「まあ、それもいいけど私は壮太くんを刺したりするような、そんな野蛮な

ことはしないよ・・・だから、さっきあんたが飲んだ紅茶に毒を入れておいたから・・・そろそろ効いてくるころだね」


「おえ?・・・まじで?・・・俺、毒殺かよ」


つづく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る