第7話 コーディングテスト


 そして俺は無事......かは知らないが面接を通過し、次の試験に入ることとなった。


 次はコーディングテスト。簡単に言えば、出された問題に沿ったソースコードを決められた時間内に書き上げるテストである。これで実力を測り、それ次第で入社出来るらしい。

 まあ一応俺達が集められた時点で実力に検討は付いていたらしいので、念のために確認する程度と言われてはいた。はずだったのだが。


 ......なんだこれ。


「..........」


 目の前に置かれた見慣れたノートパソコン。

 しかし、いつも使っているツールに表示されているのは全く分からない文字列であった。知らないアプリを急に渡された後に問題に従って仕様変更まで持ち込めだのどうこうとか指示を受けたのだが、単刀直入に言おう。わからん。


 制限時間は三十分。一応検索は可能だし、ツールも何を使ってもいいと言われている。唯一使ってはいけないのはSNS等の質問が出来るサイトのみらしい。

 検索が使えるなら余裕じゃないかと思われるかもしれない。だがそうじゃないのだ。問題は、そもそも何のソフトかすらも分からないのだ。


 知らない拡張子......あのファイル名の後についているtxtとかexeとかそういうものではなく、今までソフト開発に携わってきた中でも見たことが無い。


「......?」


 取り合えず拡張子がまずわからないので検索にかけてみると出て来たのは何体ものキャラクター。どうやら3Dモデルと呼ばれるタイプのオブジェクトモデル?まあなんかゲームの3Dキャラクターを動かすような物らしい。


 こんなのもう詐欺じゃないのか?

 求人の概要には『コーディングテストで適応力を確認する』とは書かれていたが、まさかこのような土壇場でなんとかする力を見極めるとは思わないだろう。

 なんて思っていた時であった。


「あ、すみません。掲示板等への質問以外は何をしてもいいとは言いましたが、これ以降は弊社のサーバーに侵入して答えを回収するのも信号を傍受して答えを見るのも禁止とさせていただきます。合法範囲内でかつ社会的にセーフなレベルでお願いしますねー」


 そんな声が前の方から聞こえて来た。

 嘘だろう、確かに何をしてもいいとは言われたが普通に考えてサーバーに侵入しようとなんかしないだろう。最早逆に誰がやってるのか気になって来たが、そんなヤバい人が入社しようとしている企業に転職しようとしている俺も大丈夫なのだろうかと心配になって来た。


 そんなこんなで年甲斐もなく泣きそうになった俺であったが、何とか転がっていた情報をかき集めて何のソフトかが判明。どうやらこれがモーショントラッキング、つまり人の動きなんかをモデルに落とし込んで動かす為のソフトであることが判明した。

 一般的に言われるソフト、つまりちゃんとした画面GUIが用意されていれば話は早かったのだが何故か今回渡されたのは知らない人に見せたらこいつハッカーか?って思われそうな黒い画面で動くCUIタイプのソフトである。


 しかしソフトの種類さえ判ればパラメーターを弄って仕様書通りにモデルを動かせるようにすれば完成なのだが、ここにきてまた難問に差し掛かる。



『3Dモデルに可愛いポーズをとらせよ』





 そしてひたすらにPi○ivやSNS等のイラストを検索することでギリギリまで粘り、気づけば試験終了時刻となっていた。


「はい、それでは同封されているテキストに沿ってサーバーまで送ってください」


 そして指示通り対象のサーバーに作ったファイルを送り、試験が終了する。


「それでは結果については後日メールでお送りいたします。それではお疲れさまでした」


 既に資料なんかのやり取りや説明なんかは終わっていたので試験が終わり次第解散である。俺も疲れたので出来ればさっさと帰りたかった。


 なんか楽しいには楽しい職場なんだろうけど、若干の恐怖を感じたのだ。


 まず入社試験でサーバーに攻撃を仕掛ける人や、そもそもそれにリアルタイムで対応できる試験官。そして謎のJKから俺みたいなおっさんまで集う多種多様すぎる会社。受かったら勿論今の会社から逃げる為にこちらに行くのだが、取り合えず常識範囲からは逸脱しているような集まりなのだろうなと悟ったのである。


 いや、選りすぐりのエンジニア達が集められれば......っていうか俺もその中の一人なのだが、変人が集まるのはこの業界の理である。しかしブラック企業で叩き上げられた俺と、自由と技術を追い求めて育て上げられたエンジニアでは単純に存在している次元が違いすぎるのだ。

 俺は知っている。俺のコミュニティに属している人たちは大抵明るく綺麗なオフィスでコーヒーとか飲みながら仕事をしているということを。

 此処に居る人たちがどんな境遇で仕事をしていたのかは知らない。しかし少なからずそんなクリーンな職場で働いていた者はいるのだろう。


「......」


 そんな境遇も知らないネット上の仲間同士を妬む俺も俺でブラック企業に染まった汚い大人なのだなと思い、若干悲しくなりながらもエントランスへと繋がるエレベーターへと向かうのであった。

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