第2話 仕事探し、始めました


 基本的に俺はこれまでIT業界で生きて来た以上、有名なサイトなどの情報はある程度把握していたりする。そして既に四十を超えた俺が企業に採用してもらえる道はただ一つ、キャリア採用である。


 簡単に言えば『俺はこの業界でどんなことをこれだけの期間やってきた。だから即戦力として投入できますよ』ということをアピールして採用してもらう方法である。これによって企業はある程度の技量を既に持ち合わせている人材を即戦力として投入できる為、教育にかかるコストをカットできる以外にも長年の経験を活かせるというメリットがあるのだ。


 そして昼休憩。会社で飯を食っていると間違いなく上司に捕まるので俺は、近所の駐車場のコンビニに車で移動してから弁当を食べていた。車の中はあまり素晴らしい環境というわけでもないが、コンビニ弁当ではなく妻が作った弁当を食べられるだけ幸せである。


「どこかねえかな......」


 しかし悲しいことに今の会社は給料だけは良いのだ。俺も会社に飼いならされたものだなと思いつつも、家のローンや生活費に影響を及ぼさないために給料の変動が少ない企業であることが最低条件である。


「......取り合えずSNSで聞いて見るか」


 実はエンジニアである以上は最新の技術に興味が無いわけではなく、しっかりSNSにも参戦していたのである。そして実はエンジニア界隈の中では結構フォロワーがおり、実はそこそこ大きなコミュニティに属していたりしているのだ。

 これは結局困った時に助けてくれるのはネットでも書籍でもなく、同じエンジニアの仲間であるという若かりし頃の教訓から来ている。ネットだとしてもその向こうにエンジニアが居る以上、コミュニティに参加しておくことは結構重要なのだ。


【Gotou@名無しのエンジニア】: 現職がブラックすぎて転職したいんですが、40超えたおっさんを採用してくれる企業さん居ませんか?立場をわきまえていないのは重々承知ですが、家のローンと家族を養うために現職の給料と同等という条件も含めて。


「これでよし」


 そしてスマホをホルダーに引っかけ、再び弁当に箸をつける。


 実はエンジニア達のコミュニティはかなり民度が良く、基本的に最近ネットで話題になっているフェミニストみたいなヤバい思想を持った人間は殆どと言っていいほどにいない。

 それに実はIT企業に関しては規模に関わらず、このようなコミュニティに潜伏してヘッドハンティングしているなんていうこともあるのだ。俺はそれに賭けてみることにしたのだ。


: とうとうGotouさん転職するのか!!

: 歓喜

: ブラック脱却応援しますよ!!

: こんな優秀なエンジニアがブラックに縛られ続けるのはもったいない!!


「......歓喜してくれるのはありがたいから企業さん来てくれねえかな」


 まあ投稿して数十秒でここまでコメントがついてくれただけありがたいと思おう。

 しかしそんなことを呟いていると不意に着信が入り、SNSを開いていた画面の上にバナーが浮かぶ。


「あ......?ああ、辰巳か」


 上司でないことを確認し、通話に応答する。


「もしもし」


『後藤、お前転職するのか?』


「する」


『なんで言ってくれなかったんだ。俺も乗っかったのに』


 そんなことを喚くこいつ、辰巳タツミは俺と同じくプログラマーとしてこの企業で戦い抜いてきた戦士である。そして俺の社内に居る唯一無二の友人でもある。恐らく投稿を見て連絡を寄越してきたのだろう。


「あ゛ー......俺ももう辞めてえよこの会社」


「どうやら最近FIREってのが流行りらしいぞ」


「早期リタイアってやつだろ?勘弁してくれよ。そもそも稼ぎもそんな大層なこと出来るほどはねえし、大体こんなクソ企業がんなことさせてくれんのか?俺らみたいな昭和生まれの旧式を令和最新のネットワークに放り込むような組織だぞ?」


「まあ俺は次が見つかり次第辞表叩きつけるがな」


「抜け駆けすんなよー。しゃーねえ、マジレスすると俺も転職考えてたから乗っかるわ。一応まだ技術について行けなくはなってねえしどうにかなっぺ」


 俺達も当初からプログラマーとして現在に至るまで、何十というプログラミング言語と日々更新されるシステムに格闘し続けること早二十年程。やけに最近のSNSや流行り、IT知識に富んだおっさんが出来上がった次第である。


「お前のその能天気さがあればなんとかなるかもしれんな」


「何言ってんだよ。俺も此処まで頑張ってきたんだぜ?流石に定年まで此処で働ける自信はねえ」


「定年引き上げるらしいしな。社内システムは古い癖にこういうところだけ流行りに乗っかりやがって」


「大体六十超えた時点でおっさんからおじいちゃんにアップデートだかダウングレードだかしたような人間を最新の情報を求められる技術部門でフル稼働させようとか頭おかしいんじゃねえのか?」


「本当だよ。最早そこまで来たら定年退職で金一封どころか最早シルバーじゃねえか」


「やってらんねえよな」


「な」

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