おっさん俺、ブラック企業からVTuber企業に転職してみたんだが職場にヤバい奴しかいない件
夜桜リコ
第1話 家族の心配
「お父さん。大学はどうにでもなるから、お願いだから仕事を辞めて?」
「お父さん、私からも頼むわ」
ある日、俺は妻と娘からそんな話を切り出された。
「......そうは言ってもな、まだ家のローンは完済していないしなんだかんだ大学の費用も生活費もまだかかるんだ」
「でもこのままだと取り返しがつかなくなってもおかしくないんだよ。お父さん、既に今年に入って四回は倒れてるんだよ?」
「本当に最近は過労死なんていうのもあるらしいの。お願い」
「心配をかけて本当に申し訳ない」
そして俺は席を立ち、自室へと続く廊下を歩きだす。
家族から本気で心配されるレベルのブラック企業。かれこれ俺は何回も倒れて当日入院をし、点滴を打つことでまた次の日には会社に行って何もしていない上司に怒られて。そんな社員ばかりが集まった闇の巣窟みたいな会社である。
俺はそんな会社にかれこれ二十年は勤めていた。
コンピュータという夢のハイテクマシンに憧れた俺は大学を卒業してすぐにこの会社に入り、大企業として世にその名が広まるまでの成長を見ていた。しかしその裏では現場を金で縛り、給料はやっているだろうと散々に働かされていた社員たちが何人も何百人も居たこともまた、俺は見て来た。
そして俺もその中の一人として、長年積み重ねて来た技術はあってもその技術を現場で活かすためにと出世はさせてもらえなかった。しかし給料はそこそこ良い。そんなこんなで踏ん切りがつかないまま、取り返しのつかない年齢まで来てしまったのだ。
しかし俺ももう歳である。
若い頃のように無茶の効かない身体ではこの先もこの企業で働くのは正直厳しい。社会人の常套手段であるから元気にも限界はあるし、辞めたい、転職したいと思ったことはもう数えきれないほどだ。
しかし、俺には守らなくてはならない家族が居る。
妻の生活を支え、娘が自立するまでをしっかりと見届ける為に俺は働いている。その為には辞めたくてもやめる訳にはいかない。いや、辞めてしまえば既に四十を超えたおっさんなぞ、どこも雇用はしてくれないだろう。社会とはそんなものだ。キャリアがあってもなんだかんだ転職が効くのは三十歳まで。後は若くて体力もあり、物覚えも良い新卒がどんどん採用されるだけだ。
「......辞めてえよ」
リビングに居る家族らに聞こえない程の声で呟き、自室のドアを開く。
「......はあ」
俺は一体何のために働いているのだろうか。
答えは一つ、家族を養う為だ。間違っても心配をかけさせたくてこの会社で働いている訳ではない。俺が独りだったらすぐにこんな仕事投げだして自分の好きに生きる。
しかし愛する妻と娘が居る以上、裕福とまでいかなくてもせめて不自由のない生活を送らせたいと俺は思っている。金が全てだとは言わないが、その為に収入は必要不可欠なのだ。
なんか泣けてくるな。
「......俺どうすりゃいいんだろう」
椅子の背もたれに体重を預けながら、机の上に置かれたスマホを手繰り寄せる。
最近では転職が悪だという風潮は全く聞かないし、キャリアアップなんていう言葉があるのも俺は知っている。しかし、俺みたいな古い世代の人間にそれが適応されるかと言われればそうではないだろう。
とはいえこのままずっといるのもそれはそれで癪である。
よく考えたら酷い話だ。此処まで長年働いてきているのにも関わらず身分は変わらないし、何も知識のない上司は対して溜まっても居ないストレス発散をする程度で現場を叱りつけ、労基も監査も何も役に立っていない。
そして何よりもう妻と娘に心配そうな顔をさせたくない。もう二度と『大学はどうにでもなるから』なんて娘の口から言わせたくない。
そんな動機で気づけば俺は、転職エージェントのサイトのURLを踏み抜いていた。
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