二
よく、土俗ホラーとかでは夕暮れが舞台になることを知っているだろうか。もしくは朝焼け、さらには夜の存在が挙げられるだろう。どうしてそんな時間帯が舞台になりやすいかと言えば、単純に人間には根源的恐怖として暗闇を対象と選ぶ性質がある。幼い頃に部屋で見る暗がり、夜の空を見て怖いと思ったことはなかっただろうか。僕がよく覚えていることとすれば、夜空に光る星ひとつひとつが、宇宙の目のように感じて気色が悪くて仕方がなかった。今でこそ人間の価値観を覚えて、相応の恐怖感を抱くことはなくなったけれど、当時の感覚を思い出せば、容易に鳥肌を立たせることができる。たまに、鳥肌を立たせたい感覚っていうのがあると思う。僕はそんな感覚になるときにh、だいたい夜の目の想像をする。共感を得られたためしはないから、別にこれに興味を抱く必要はない。ともかく、怪談の舞台となるのは夜に関連するということを挙げたいのだ。
朝焼けにある怪談として挙げるのならば、サミドリというものを知っているだろうか。五月の中旬ごろ、晴れであるというのに雨が降り続ける地域の怪談のことなのだけれど、この話を知っている人間はあまりいない。単純にマイナーというだけであり、文献を調べれば確かに出てくるのだけれど、今どきの情報社会の肝となるであろうインターネットで探してみても見つかることはないだろう。この話の怖いところは人間の怖さがあげられる。五月という時期、呪いをかけられた家族がいたらしく、毎年赤子のへその緒を捧げなければいけなかったらしい。詳細については僕もよくは知らない。祖父から夏場に聞いた話だ。当時の記憶として覚えていることとすれば、冷房という環境もそろえられない家屋の木々の湿気がこもっていることくらいで、詳しく聞こうとなんてしていなかった。だから根幹たるキーワードしか記憶に残っていないのだけれど、大筋だけをはっきり言えば、五月に子供を産む風習がその家にはあったらしい。でも、それは母胎に対する負荷としか言いようがないし、一人の女体がそこまで何人も埋めるわけはない。だから、公然と許されるように浮気というか不貞を重ねたわけなのだけれど、問題はそれでも子供が生まれなかった時期があったとか。そんなときにどうすればよかったか、というと近隣の家をまわって、赤子のへその緒を探るのだそう。最初からそんな選択が取れるなら行動しろよって、僕は正直思うのだけれど、これにはきちんと事情があって、確か呪いを他家に伝染させる可能性があるとかないとか。逆に言えば、それが災いして他家から赤子のへその緒をもらうことができなかったとか。だから、朝焼けの時間帯に人の家屋に浸入したそうだ。なんで朝焼けかと言われれば、夜泣きで子供と母親は寝ないからだって。現代でも夜泣き問題についてはいろいろあるけれど、とりあえずその家についてはそれを想定して朝焼けの時間帯に行ったそうな。それでへその緒を盗んできたらしいんだけれど、結局盗んできた最中に赤ん坊が泣いたせいで母親が起きてしまって強奪。強奪だけならよかったんだけれど、赤子の夜泣きを無理くりに収めようと口にそこらにあった布を詰め込んでしまって、赤子が死んだんだそう。呪いについてはどうにかなったそうだけれど、もう問題はそこで収まらなくなって、赤子の死が呪いに纏わりついたとかなんとか。以前は鳥葬という弔いの方法があって、赤子の死体を烏に食わせたのだとか。結論の詳細は省くけれども、まあ、災難な目に遭ったという結末は想像に難くないだろう。それを書き記すのはどうにもグロテスクな想像が働いてしまうから僕は嫌なんだ。だから、各々で勝手に想像してくれると助かる。
話がそれてしまったような気がするけれど、ともかく、夜に関連して怪談は作られるというか、生まれてしまうというか。人の業ともいえることなんだけれども、夜であれば悪いことは目立たないからなんだろう、悪事の末路ともいえるのが怪談という物語なのだ。だが、それを踏まえて言うのならば、おそらく僕がこれから話すことは怪談ではない。怪談にはたいがい悪事がついてまわるわけだけれど、僕に悪事をした記憶はないのだから、怪談とするのを良しとしたくない。誰かは僕を開き直っているような人間だと揶揄するかもしれないけれど、これから書き記す内容については嘘偽りなく、脚色なく、事実ありのままでしかないのだ。だから、勝手に怪談と勘違いしてくれるな。
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