私をスキーに連れてって
菜月 夕
第1話
俺がそいつに出逢ったのは秋もそろそろ終わり、冬の声も聞こえて来る頃だった。
たまに掘り出し物を探しに行く近所のリサイクルショップにそいつはあった。
見た途端になぜか惹き付けられた。
そして俺は気がつくと滑れもしないスキーを買っていた。
え、俺はなんでこんな高い物を。中古とは言え、新品同様のそのスキーの値段は結構高かった。
そこまでは衝動買いとか、気の迷いで許せる。
夜になってそいつがささやき始めるまでは。
「スキーに行きたいー。連れてけー。連れてけ-」
そんなこと言ったってきっと連れてスキーにでも行ったものなら一緒に地獄へ引き込むに決まってる。
「そんなことしませんからーー。スキーに行きましょうよー」
その晩から騒ぎ続けられ、俺はつい目にもまぶしい雪山スキー場に来てしまった。
まったくなんてこった。
くだんのスキーはルンルンしながら「早くー、早くー」と騒いでる。
なんでこいつはこんなに軽いんだ。こちとらスキーを履いた事もないのに。
しかし、こいつを履いた途端に自由に雪原を滑る事ができていた。ひゃっはー!
さんざん滑ってこれは明日筋肉痛だぞ。
そして一晩寝て、朝の筋肉痛の地獄をおして起き上がるとスキーは無くなっていた。
成仏したのかな。
そして一年後。そいつはまたリサイクルショップに飾られていた。
そんなとこに飾られていないで俺の金を返せよ。
そしてそいつはまた誰かに買われていった。
あいつがスキーを滑りたかっただけかい。
あいつを買った金はお祓いの祈禱料だと思うしか無かった。
私をスキーに連れてって 菜月 夕 @kaicho_oba
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