第8話 なりたいもの見つけた!

 新宿御苑を後にして、急ぎの予定もなかったので、風太と恵は新宿駅までプラプラ歩いていくことにする。

 恵に言われた通り、あれから手はずっと恋人繋いだまま。

 風太はもう、身体が溶けてしまいそうなほど熱を帯びていた。


「ねぇ風太。私なりたい職業決まったかもしれない」


 唐突に、恵がそんなことを言い始めた。


「えっ、本当に?」

「うん!」


 はっきり頷いたかと思えば、恵は頬を赤らめながらこちらを見上げてくる。


「私、風太のお嫁さんになりたい」

「……はい?」


 予想を遥かに上回る発言に、風太は素っ頓狂な声を上げることしか出来ない。

 ようやく恵の言いたいことを理解して、風太の身体がブワッと熱くなっていく。


「なっ⁉ 何言ってるの恵!?」

「何って、風太のお嫁さんになりたいって」

「いやいやいや、俺たちまだ出会って数時間しか経ってないんだよ⁉ どうしていきなりそうなるワケ!?」

「だって風太優しいんだもん。面接で助けてくれてた時から思ってたけど、私が行きたい所に合わせてくれて、就職活動まで一緒に企業分析まで教えてくれたりさ。ここまでお人よしなの、風太ぐらいだもん」

「いや、俺はただ、恵に嫌な思いをして欲しくないだけで……」

「なら、私が嫌な思いをしないよう。風太がそばにいてよ。私を幸せにして?」

「なっ……」


 潤んだ瞳で尋ねてくる恵に、風太は言葉を失ってしまう。

 確かに先ほどから、風太は恵に翻弄されっぱなしだけれど、この状況をどこか楽しんでいる自分もいることは事実だ。

 けれど――


「俺たち、まだお互いの事ほとんど何も知らないよ?」


 恵と出会って一日も経っていないということが、風太の中で引っかかりとなって前には踏み出せない。


「これから知っていけばよくない?」

「もしかしたら、幻滅することだってあるかもしれないよ? それでもいいの?」

「そうかもね。でもさ、好きってそれを含めてもその人と一緒に居たいって事じゃないかなって私は思うんだよね。私は風太が幻滅するようなことをしたとしても、全部それを含めて風太だって受け止めるよ」

「なんで初対面の俺にそこまでして……」

「分かんない。でも何でだろうね。風太と話してたら凄い安心しちゃうんだ。どんどん自分を曝け出しちゃう。こんなの初めてなの。だから風太も、私にありのままの自分を見せて欲しいな」

「ありのままの自分……」

「うん……ねぇ風太。風太は今私のことをどう思ってる?」

「俺は……」


 この数時間で、風太は恵に驚かされっぱなしだ。

 加えてドキドキしっぱなしで、可愛いと思ってしまっているのも事実。

 だからこそ……風太の中に芽生えているものと言ったら……。


「恵のことを、俺だけのものにしたい。誰にも奪われたくないって。思ってる」


 気づけば、恵の口車に乗せられて、つい本音を口にしてしまっていた。


(うわっ、重すぎだろ俺……)


 初対面にも関わらず、恵を他の男にとられたくないと見栄を張っているのだ。

 情けないったらありゃしない。


(幻滅されただろうか?)


 恐る恐る恵を見つめれば、恵は嬉しそうに綻んでいた。


「あはっ……やっと本音で話してくれた。風太重すぎ」

「しょ、しょうがないだろ……そう思っちゃったんだから」

「でも、そこも含めて私は風太のことが好き」


 そう言って、恵はつないでいた手を離すと、そのまま両手で風太の首元へと手を回してきて――

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